第7話 マイネの発情期

 その夜。

「お父さん、あの匂い、するよ」とカスパーに言われた。


 カスパーはアルファなのだろう。

 毎回、マイネの発情期を、いち早く嗅ぎ取って教えてくれる。 


 一カ月前に発情期が済んでいたマイネは、ルシャードに会ったことにより三カ月に一度の周期が早まったのかもしれない。


 抑制剤を飲み就寝した。


 マイネは抑制剤がよく効く体質なのだが、今回は例外のようだった。

 翌朝起床しても、身体が重く火照りが消えてなかったからだ。


 朝食にバナナとパンとチーズを用意して、カスパーの頭を撫でた。

 獣の耳は柔らかい。


「ごめん。今日はお父さん寝てるよ。カスパーいい子にしててくれるか?」

 

 再びベッドに入ったマイネが目を閉じていると、食べ終わったカスパーが、自身の尻尾を触りながら近寄って顔を覗き込む。


「遊びに、行っても、いい?」

「家の前をコニーが通るはずだから、双子と遊びたいならコニーを待ってろ」

「わかった」

 

 外が見える窓から通りを見ていたカスパーは、しばらくすると、「いってきます」とコニーに連れられて出て行った。


 一人になったマイネは、我慢できなくなり下着の中に手を伸ばす。

 勃ち上がった器官を手のひらで包み、刺激を与えた。


 朝方も抑制剤を飲んだのだが、まったく効果がない。

 ルシャードの匂いと温もりを忘れられないのが問題なのだろうか。


 じっとりと濡れた後孔に手を伸ばすと、どろりと粘液が溢れた。


 もっと太く熱くたぎったアルファのもので、奥まで突いてほしいと本能が欲求する。

 

 ルシャードの手が肌を蠢く感触が蘇った瞬間、射精していた。


 それでも熱が治らない。

 

 初めての発情期の記憶がマイネを襲う。

 始まりは、噛みつくような口付けだった。


 マイネの舌をルシャードの舌がからめとり、唾液を交換すると、ルシャードはマイネの胸を探ったのだ。

 そして、ルシャードの指が胸の突起をかすっただけで、マイネの後ろの穴が疼き、甘い声が漏れてしまったのだった。


 マイネは、ルシャードの手の動きを再現するかのように、胸の粒に触れる。

 

「ん…ルシャード様」


 両手の指で左右をつまみ転がした。

 ルシャードに触られた時の快感は、こんなものではなかった。


 マイネとは違いルシャードの大きな手のひらで触れてほしい。

 あの夜、ルシャードに何度も「マイネ」と呼ばれた。


 霞がかかったような記憶の奥にルシャードの声が「好きだ」と言ったが、これは夢で見た記憶だ。

 発情期になると、毎回見る都合のよい夢だ。


 マイネは三回連続で吐精すると、ようやく落ち着き始める。

 ベッドを出て、白濁で汚れた身体を濡らしたタオルで清めながら、別れぎわのルシャードを思い返した。

 

 『次に俺が来た時は一緒に王都に帰らないか』

 昨日のルシャードの言葉。


 ルシャードがマイネを連れて帰りたいかのような響きだった。

 事務官だったマイネを必要としているのかもしれない。


 ルシャードは結婚が決まっていたはずだ。

 だから期待はしない。


 婚姻が延期になっている理由はわからないが、五年前は極秘で隣国を訪問したりしていたルシャードだ。

 破棄されたとも思えない。


 それにカスパーを連れて王都に行けるわけがない。

 マイネの答えは決まっていた。


 発情期のフェロモンにあてられてマイネと行為に及んだルシャードが、カスパーの存在を知った時、どのような反応をするだろうか。

 罵倒されるかもしれない。

 

 汚れたベットシーツを洗濯しているところに、ゲリンが姿を見せた。


 林檎の入った紙袋を手渡される。

「大丈夫か?」


「うん。発情期だよ。薬が効いたから、もう平気。俺より昨日の怪我は大丈夫か?」


 昨日、病院に戻った後、ゲリンと会話する時間がなかった。


「あぁ。たいしたことない」


 お茶を出す。

 テーブルを挟んでゲリンと向かい合って座った。


「カスパーのことだが、どうするつもりだ?成長したら獣型に変化してしまう」


 ゲリンは無表情で淡々と言う。

 その態度がマイネはありがたかった。


 マイネはずっと胸の内を誰かに聞いてほしかった。 

「俺の話、聞いてくれるか?」


 ゲリンが頷き、マイネは語り始める。

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