第39話 兄の伝言
俺はポケットからさっき外した指輪を取り出し、再びリリアの右の薬指に嵌めた。指輪はリリアの細い指を守るように包んだ。
俺はテーブルに置かれたポットからカップに紅茶を注ぎ、すっかり冷めたそれを一口飲んだ。
横たわるリリアを見ながら、昨日起きたことを詳細にを思い出していた。そして紙とペンを取り出して記した。
フィール侯爵あての報告書を作成するためだ。
もちろん書かないこともあるが、そこは王国に来てからの俺の苦心に免じて許してもらおう。
それほど経たずにリリアは目覚めた。
「何をしたんですか」
「あとで教えます。その前にあなたに言わねばならないことがある」
「なんでしょうか」
「私はフィール侯爵からあなたにあることを伝える依頼を受けています」
リリアはそれを聞くと動揺し、何かを恐れるように両手を握り締めた。
そして無言で俺の言葉を次の言葉を待っていた。
「リリアに帝国には戻るなと伝えてくれと」
それを聞くとリリアは何か抑えていたものを吐き出すように叫ぶような声を上げて泣き始めた。
俺は黙ってそれを見ていた。
しばらくすると涙を拭い、リリアは言った。
「ありがとうございます。それを伝えるためにここまで来ていただいて」
「礼には及びません。だが、あなたは何か勘違いをしているようです」
「私が何を勘違いしているというのですか。兄から縁を切ると言われたのです。それほど私は侯爵家にとって疎ましい存在になっているということではないのですか」
俺は余りにリリアの言いそうなことだと思い、ふっと笑った。
「何がおかしいのですか」
リリアは初めて俺に怒りをあらわにした。
「あなたがあまりに思慮が足らず、幼いからです」
「何をいっているのかわかりません、私には」
そう言うリリアを見ながら、俺はフィール侯爵のリリアへの思いを理解できた気がした。
「フィール侯爵が縁を切るのなら、ただ放っておけばいい。わざわざ私にあなたを探すように依頼する必要もなかったのです。帝国に戻るなという言葉の意味がなぜ、あなたはわからないのですか」
「どういう意味なのです、教えてください」
「自分で考えるのです。ただ、これだけは言っておきます。フィール侯爵にとってあなたは侯爵家の令嬢ではなく、大切な妹なのです」
俺の言うことを聞きながら、リリアは何かを想っているようだった。
「そのリングも本来は私のために与えられたものです」
リリアは指輪が再びはめられていることにようやく気づいたが、もうそれを外そうとはしなかった。
「幼く短慮なあなたが、魔術で私を操ろうとするのを防ぐためです。ただ、私には無用な配慮でした。なので改造してあなたの魔力を封じる指輪にしました」
俺はリリアがようやく落ち着いたのを見て、さっき俺が放った魔術で何をしたかを話すことにした。
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