第38話 復活の魔術

「なんだこれは」

 受付の女性は、依頼達成の報酬金ですとヤードに笑顔で答え、失礼しますと出て行った。

「どういうことだ、これは」

 ヤードが怪訝な顔をしていた。

「受け取っておけ。たぶん、口止め料みたいなものだ。ほら、仮とは言え私は帝国の一等将官だ。昨夜のことがわかると色々面倒だからだろう」

 俺はそう言ったが、たぶん闇討ちの詫び料だ。

「いいでしょう。依頼主が依頼達成としているのだから」

 ヘレンもそう言って曖昧に笑った。

 たぶん侯爵から何か聞いているのかもしれない。

「殴られ損にならなかったということか」

 ヤードは報酬の入った袋を叩き、嬉しそうに笑った。

「依頼の方はこれで済みましたの」

「ええ、ほとんど済みました。あと少しやらねばならないことも残っていますし、これから大使館にも報告に向かいます」

 俺はそれではここで失礼いたします、と立ち上がった。

 ヤードとヘレンも立ち上がり、俺は二人と握手を交わした。

「今度王国に来た時には連絡してくれ。あの店で飲もう、俺のおごりで」

 俺は必ず連絡すると答え、部屋を出た。

 冒険者組合を出ると、俺は最後にしなければならない厄介ごとを終わらせるために歩き始めた。


 俺はノックをし、リリアの部屋に入った。

「大人しく待っていました。言われた通り」

 リリアはキッチンで紅茶のカップを手にしていた。

 しかし不安か怖れか俺を見る表情はこわばっていた。

 「用事は済ませてきました。私が予想した通り、オットーはイルムさんの手下が殺したそうです」

 それを聞くとリリアの表情は微かに緩んだ気がした。

 俺は立ち上がってリリアのもとに行くと、後ずさる彼女の右手を掴むと指輪を外した。

 リリアは驚いたように俺を見た。

「私に魔法を放つのです。できるだけ威力が大きい方がいい。結界があるので遠慮は無用です」

「なぜですか、いえ、あなたは何をしようとしているのですか」

 頭の良いリリアはおぼろげに俺が何かを企てていることはわかるのだろう。ただ、何をするのかは言えない。

 俺は諭すように言った。

「こうするより他に手がないからですよ」

 リリアは深くため息をつくと決心したようだった。 

 俺は立ち上がったリリアから距離をとると、それを待った。

 何か詠唱を呟きながら彼女は両手を俺の方に向けた。

 その全身は徐々に光を増すとその姿が見えなくなるほどに輝き、直後にリリアが放ったものは俺の全身を震わせた。

 その魔力のすべて吸収するのは中々の試練だったが何とか収めると、俺はそれをある魔術に変換し、リリアに放った。


 リリアが俺に放った魔術は復活リザレクションだった。

 それはあらゆる傷病も治癒し、いかなる呪いからも解放する神授の加護を得た光聖女だけが放ちうる最高クラスのものだった。

 そのまま受けていれば、俺のだいぶガタついた体も若々しくなったに違いない。返す返すも損な役回りである。

 リリアは俺の魔術浴びると気を失った、俺は倒れかけた彼女を抱きとめると、ベッドに運んで横たえた。

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