第31話 悲劇の始まり
それをきいて俺には腑に落ちないことがあった。
「リリアさんはオットーを探すために、帝国を出たのではなかったのですか。私はそのように聞かされていたのですが」
リリアは何を言っているのかというように、俺を見た。
そこでリリアの口から出た言葉は、意外なものだった。
「家を出たのは侯爵家の者としてふさわしくなかったからです。私は自分の愚かさのせいで一時の感情に任せ、父や兄に恥をかかせてしまいました。死のうとも思いましたが、それではまた父や兄に迷惑をかけることになってしまいます」
そう言って、リリアは自分の膝に頭をうずめてしまった。
その姿を見ながら、俺は言った。
「誰でも若気の至りということがあるでしょう。間違いを犯さない人間などこの世界にはいませんよ」
その言葉に、リリアは絶望的な表情で俺を見上げた。
「フィール侯爵家の娘にその間違いは許されないのです。もしも私が男であればただの浮名で済んだでしょう。でも、私は娘として生まれてしまったのです。あのような男に誑かされてしまったというのは許されることではないのです」
俺には何も言うことはできなかった。
しばらくの沈黙の後、リリアは再び語り始めた。
「私は翌日早朝、逃げるようにオロスに向かいました。あの楽しみにしていたオロスにある工房の訪問もどうでもよくなるほどに怯えていました」
その時のリリアは内心、気がおかしくなるほどだっただろう。
「何とか工房の訪問も済ませて、その日泊まることをお願いしていた家に向かっていると、あの声が聞こえてきたのです。オットーは私が来ないのを不審に思って、宿で私がオロスに向かったのを聞いて追ってきたのです」
リリアは狂騒状態になりながらも表面は冷静さを保ち、オットーにやり直すことはできないと告げた。
しかし、オットーは自分を探しに来たが、リリアが気持ちの整理がつかないだけだと勘違いし、今は真面目に働いているし、帝国でのことは謝るからと引き下がらなかった。
リリアは人目につくのが嫌で、オットーを伴って古い林道に入ったところで、もう一度やり直すことはできないと告げた。
「彼は私の気持ちをようやく理解できたようでしたが、そうすると急に私を責め始めたのです。自分がこうなったのは私のせいだと。その償いに金をよこせと言ったのです。私はもちろん拒絶しました。そして、話すことはもう無いと言ってその場を去ろうとすると、掴みかかってきました」
そこでリリアは狂騒状態に抑えが効かなくなった。ただでさえおかしくなりそうな状況だったのである。
リリアはその場の恐怖から逃れるため、護身に使われる自失の魔術を放ったのである。
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