第30話 再会
俺はそこまで聞いたが、なぜ王国にリリアが縛られているのかがわからなかった。
「しかし、それだけの仕事であればいつでも辞められるでしょう。確かにイルムは手放したくないでしょうが、事を荒立てれば困るのは彼のほうでしょう。あなたが帝国の貴族に連なることを知っていればなおさらです」
俺がそう言うとリリアの表情は急に曇った。
「そうです。でも、その後に恐ろしいことが起こってしまったのです」
リリアはそのことについて語ることも苦しげだった。
マヨラムは順調に顧客を増やすようになって、リリアはオロスの工房に興味を抱くようになった。そのデザインそのものが非常に魅力的だったからだった。
元々侯爵令嬢だった彼女は宝飾品に造詣が深く、与えられたものではなく自らそうしたものを選んで身に着けていた。
「それでイルムさんに、工房に行くことを頼んだのです。店で魔術を施すのも工房で施すのも同じですから、イルムさんも反対はしませんでした。むしろ店頭での接客に生かせるので、研修のような感じでオロスの工房に行くことを許してくれました」
そこまでは良かったのです、とリリアはうなだれた。
リリアは俺がオロスを訪れたのと同じ経路を使い、まずヒルデに着いた。
そこで俺は翌朝すぐにオロスに向かったが、リリアは王国に来て初めて王都以外の町に行ったので、そこで一日過ごすことにしたのである。
それがリリアには不幸の始まりだった。
「私は翌日、宿を出て土産物屋や食堂を訪れました。帝国でも王都でも地方の町に行ったこともなったので、楽しかったのです。朝から色々なお店を見て回り、日も暮れ始めてそろそろ宿に戻ろうと思った時に、私の名を呼ぶ声が聞こえたのです」
それは聞き覚えのあるあの声でした、とリリアは声を震わせて言った。
「そこにいたのはオットーでした。声は昔の通りでしたが、姿はあのころとはすっかり変わっていました」
オットーはリリアは呆然としている間、自分の境遇をあれこれと語り続けていたとリリアは俺に話した。
「実家の父親から家のために死んでくれと言われ、それだけは勘弁してくれと頼むと、死んだことにするから帝国には二度と戻るな、王国でも帝国の人間に見られないようにしろ。もしも生きていることが分かれば追っ手をかけて本当に殺すしかないと言われたそうです。それなりのお金は持たせてくれたそうですが、すぐに無くなったと言っていました」
リリアと会った時には、ヒルデで酒場の店員をしていたらしい。
そこでオットーはリリアにもう一度やり直さないかと言い出した。
これから仕事で遅くなるから明日もう一度話をしようと言われ、リリアはその場を逃れたい一心で承知して別れたというのだ。
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