第29話 リリアの才能

 生活費を工面するには王国に来ても持ち出した自分の宝飾品しかなかったため、リリアは帝国でも知られていた宝飾店に売りに行った。

 しかし帝国でも高位の貴族令嬢の持ち込む宝飾品は特別な品であり、それに気が付いた担当者は支配人にそれを報告した。

 盗品は問題になるが、帝国の物であれば王国では当局に報告する義務はない。しかし犯罪者であれば通報する必要はある。

 だが、支配人はリリアを見て彼女は犯罪者ではなく、帝国の貴人であると判断した。


「結局、私の身分は嘘であることを見抜かれてしまいました」

「そうでしょうね、商人というものはそういうことに目敏いものです。それでイルムと知り合ったのですか」

「宝飾店が彼の系列だったのです。おそらく彼は帝国の貴族の令嬢だとすぐにわかったのだと思います。でも、深くは詮索しませんでした」

「正体をなまじ詮索すれば、余計な問題を抱えますしね。知りませんでしたで済ませられれば、その方が都合は良いですから」

 イルムは下手な扱いをして後で問題になることも困る。

 しかし貴重な窮鳥であることは確かである。そこは商人の嗅覚が働いたということだろう。

「私が仕事を探しているというと、イルムさんが何かできることはないかというので、魔術を学んでいたのでそれを言うと、いくつかできることを見せてくれないかというので、簡単なものを見せました。彼はその中で簡易的に魅力を増幅させる魔術と追跡の魔術に目をつけました」

「なるほど。さすがという所ですね」

「雇ってもらえることは約束してもらえたのですが、何をするかはしばらくわからず、宿で連絡を待っていました。数日後連絡があって、相談を受けました。それがマヨラムだったのです」


 イルムは宝飾のブランドを立ち上げて、それにリリアの魅力の増幅と追跡の魔術を付加することを考えた。

 石はオロスのものを使ったのは、再生蓄魔石は宝飾の用途としては向かなかったからである。オロスで産出される天然の蓄魔石は、透明度が高く色も美しく宝飾向きだったのである。

 そこでオロスに工房を作り、できたものを王都の店でリリスが魔術を込めることにしたのである。

「私がオロスで工房を訪ねて見た品からは、リリアさんの魔力は感じられなかったのです。石の魔力はありましたが、それは天然のものだけでした」

 リリアはそれを聞くと何度か頷いて、説明をしてくれた。

「通常なら物に魔術を込めるには術者の魔力を使わねばなりませんが、あの石は魔石で魔力がありましたから、それを使えばよかったのです。私の持っている魔力をそれほど使わずに済みました。魔術印を込めればいいだけでしたから」

 リリアは簡単に言ったが、魔術発揮のための魔術印を物に込めるのはかなり高度な技術である。

 侯爵が語ったリリアの魔術の才能は、やはり天賦のものとしか言いようがないと俺は思った。

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