第28話 告白の行方

 俺は黙ってリリアの言葉を待った。

 しばらくするとリリアは頭を上げて私に言った。

「これから何かありますか」

「いいえ、あなたに会うことが唯一の用事でしたから」

 わかりました、とリリアは立ちあがり、スカーフを手にとった。

 私が受け取ろうとすると恥ずかしそうに、ダメですと言った。

「新しいものをお渡しいたします。それからお話しすることがあるので、私の部屋に来てはいただけないでしょうか」

 俺は思ってもみなかった言葉に戸惑った。

「誰かに聞かれては困るので、ここではお話できません。私にはどうしても王国にとどまらねばならない理由があるのです」

 黙って俺が頷くと、リリアは俺の肘に腕を回して歩き出した。

「こうしていれば誰もあなたに手を出しません」

 リリアはそう言った。

「なるほど、私が危ないというわけですか」

「イルムさんの所に行くような方ですから、そう言う意味では心配は無用だと言われそうですが」

「いいえ、度胸の方はそこそこある方ですが、そんなに自信はありませんよ。ただ、あなたに心配されるのは悪くない気分です」

 それを聞くと、とリリアは小さく噴き出した。

「こんな状況でそんな冗談を言えるなら、確かに度胸はありますね」

 俺は笑顔を見せたリリアに少し安堵した。


 リリアの住処は通りに面した集合住宅の二階にあった。

 入口には暗号魔術を施された鍵があり、これを使って中に入る。

 階段を上がりすぐの所にリリアの部屋があり、ここは通常の鍵を使っていた。

「どうぞ」

 そう言われて中に入ると、そこは意外に簡素な部屋だった。

 リビング兼寝室とキッチンとトイレとバスルームそれだけだった。

 女性らしい調度品や壁飾りはあるものの、とてもあの侯爵家の屋敷に住んでいた令嬢の部屋とは思えなかった。

「質素ですね」

「販売員が済む部屋ですよ。これでも場所が良いので結構家賃は高いのですよ」

 そう言うリリアはどこか嬉しそうだった。

「なるほど。でも落ち着きますね」

 ええ、と言ってリリアはお茶の用意をしていた。

 そこにお座りになってください。と一人掛けのソファを勧められた。

 お茶を渡されて、自分は寝台に腰かけた。

「どこからお話すればいいか分かりませんが」

 そう言ってリリアは俺に語り始めた。


 屋敷を抜け出したリリアは、持ち出した宝飾品の一部を売って何とか帝国を逃れた。

 しかし王国に来たものの、リリアには右も左もわからなかった。

 とりあえず旅行者を装って宿には泊まれたものの、手持ちの宝飾品は限られており、いつまでもこのままというわけにはいかない。

 リリアは途方に暮れて王都をさまよった。

「身分証はどうしたのです」

 俺が訊ねるとリリアはこれですね、と身分証を見せた。

「以前、侯爵家のメイドにどんなものか見せてもらったので、作れました。念のため魔術証明は込めてありますが、無属性にしました」

 一目見ただけでこの精巧な偽造ができるリリアの技術に、俺は驚きを隠せなかった。

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