第24話 命拾い
金で言うことを聞かない危険人物の扱いをイルムはわかっていた。
現実の悪徳商人は無用なリスクは負わないし、勝てないか賭けには手を出さない。
イルムは絞り出すような唸り声を漏らした。
「それはマヨラムから知られたのですか」
俺はこれは話しておいても構わないと思った。
推測ではなく、確固たる証拠として俺がつかんでいることを、イルムにわからせるためである。
「マヨラムで使われている装飾石にはリリアの魔力が込められている」
図星を指されてイルムは黙り込んだ。
「俺にはそれがわかる能力がある。リリアの魔力は一族の保有していたリリアが残した物で確認済だ」
「オロスに行かれたのもそれを確認するためですか」
「ああ、しかしあそこではリリアの魔力は感じられなかった。それにあの工房の主はリベルではない。彼女は隠れ蓑のような存在だ」
「そうです。金を出したのは私です」
俺は頷き、次いで訊ねた。
「あの石に魔力を込めさせたのはどういう意図だ」
イルムは黙った。
「誰がそれを考えた」
「私です。商売に生かせると思ったのです。マヨラムはブランドとして成功いたしました。購入された方々もそれなりの方々です。彼らの行動を把握できれば、新規の出店や商品の販売に生かせると思ったのです」
もっともらしいが、それを鵜のみにはできない。
「では、それは
その言葉を聞くと。イルムの表情は固くなった。
「それは申し上げられません」
俺はイルムが口を割らないのを承知で訊ねてみた。
「じゃあ、リリアは誰に庇護されているんだ」
「それも申し上げられません」
「ここで話すことは誰にも聞かれないが」
そう言ったが、イルムは首を横に振った。
「リリア様のことは、限られた者しか知りませんので、すぐにその方にはわかります」
厄介な話だが、どこの世界にも掟はある。
「では質問を変えよう。俺はもうリリアに会っているか」
イルムはしばらく沈黙したが、しぶしぶという様子で頷いた。
「言っておくが、俺はリリアに何かしようという気はない。ただ、メッセージを伝えたいだけだ。それが済めば俺は王国から出て行く。余計な邪魔立ては無用だ。そうその方とやらにも伝えて置け。俺はこれからあの店に行く、話を通しておいてくれ」
「承知いたしました」
俺に抵抗するのを諦めたことは、イルムの態度からわかった。
俺は結界を解いた。
「命拾いしたな」
「今日は助かりましたが、明日はどうでしょうか」
イルムはそう言って苦笑いを浮かべた。
「運が良ければ明日も生きられるさ」
力や金で人をどうにかしようというヤツは皆、そう思った方が良い。
それが嫌なら身に過ぎた力や金を持たなければいいし、持ってしまったとしても余計なことに使わないことだ。
俺は転移の部屋に戻された。
ロビーに出て、案内の男と受付嬢にお礼の代わりに手を上げると、それを見た警護の傭兵がドアを開けてくれた。
外はすっかり昏くなっていった。
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