第18話 路地の襲撃

 俺は店が閉まるまでだいぶ酒代がかさんだが、綺麗で面白いアイリスには、それだけの価値があった。

「なんだか不思議な人よね。こういう商売をしていると、何をしているかくらいはわかるのに。さっぱり正体がつかめない」

「だから、さっきも言ったようにしがない仲介人ブローカーだ。帝国で売れそうなモノを探しに来ているだけだ」

「わかっているわ。そういう体で何かやっていることは」

「それならそれでいいが、勘繰りすぎだ」

 俺は苦笑してごまかすしかなかった。

「あなたが気に入ったわ」

「それは立場が逆だろう。客の俺が言うセリフだ」

「じゃあ、私を気に入ってよ」

「気に入ってるさ、綺麗で面白くて、酒が強い。これだけ飲まれたら次に来るのはだいぶ先になるぜ」

 アイリスはそれを聞くとふくれっ面をした。

「いいのよ、ここは私のつけにすればいいから。その分、他の客がいくらでも貢いでくれる」

「怖い事言わないでくれ」

 俺がそう言って頭をすくめると、アイリスは笑いながら形のいい胸を叩いた。

「私に任せておけば、心配ないわ。ちょくちょく来てよ、他の店に行ったってすぐにばれるからダメよ」

「仕事で行くときもあるから、それは許してほしいな。こっちも色々と都合があるからな」

 フン、とアイリスは鼻を鳴らし、でも一人の時はちゃんと来るのよと腕を絡めた。


 店が終わりになる少し前に、俺はそろそろ帰ることにした。

「また来る」

「一緒に帰るんじゃないの」

「今日はこれから仕事だ。売り物の資料を作らないといけないんだ」

 アイリスは俺を一瞬睨んだが、そう言うことにしときましょ、とあっさり引き下がった。さすがである。

 俺はアイリスの手にキスをし、店を後にした。


 店を出た後、俺は来た道を帰らずに宿の通りまで近道ができる路地を通った。

 来るときは酒場に寄るので大通りを来たが、帰りは遠回りになる。

 ちょうど向うの通りまでの半ばに差し掛かった時、俺は後ろに何かが来る気配を感じたが、振り返る前に衝撃を受けて前に倒れた。

 俺はその間、殴られはしたが痛みはなかったし、意識もあった。魔術で衝撃を散らしたからである。衝撃を吸収する術を使うと手ごたえがない感じになるのでそうはしなかった。

 下手に魔術が使えることがバレると肝心な時に使いにくくなる。

 特にこういう下っ端の筋肉馬鹿にはやられていた方が警戒されない。


 俺は気を失ったふりをして、道に横たわったままでいたが、この先を楽しみにしていた。

 というのも犯人は懐を探るでもなく、俺自身をどこかに運ぼうとしていたからである。

 金持ちでもない独り者を誘拐しても意味は無いし、これは明らかに俺が誰かということを知って襲ったのだ。

 俺としては願ってもない展開である。

 これまで足踏みをしていた分取り返せそうな気がした。いったい何の意図で俺を襲ってどうしようというのか。やったヤツの顔を早く拝みたい。

 そんなことを考えながら、俺は目をつむったまま、誰かに担がれて運ばれて行った。

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