第17話 美妓アイリス

 ヤードが出て行ったあと、店の若い配膳係りの男が彼の皿やグラスを下げに来ると俺に訊ねた。

「ヤードさんとお知り合いの方ですか」

「いや、さっき知り合った。彼は良く来るのか」

「お客さんは王国の人じゃないですね」

「ああ、仕事で帝国から来た」

 なるほど、と言って若い配膳係りは俺を見て笑った。

「ヤードさんに声を掛けられるのはラッキーですよ。あの方は王国で数少ない白金プラチナ級冒険者ですから」

 ほほう、それは確かにラッキーだ。

「ここの常連なのか」

「ええ。昔、うちの店主も冒険者で同期だったよしみで来られるんです」

「なるほど、教えてくれてありがとう」

 ついでに少し腹にたまるものが欲しいのだが、というとシチューを勧められたのでそれを頼んだ。

 俺はシチューを腹に収めると、そこを後にした。勘定は思いのほか安く、串焼き屋のおやじの言うことは間違っていなかった。


 酒場を出て繁華街を流していると、色んな奴が通りで声をかけている。

 そんな中で呼び込みが声をかけて来た。

 例の魔力を感じることもなく、その夜は何もなさそうだったので、今夜は探索は諦めて息抜きをしようと思っていた。

 ヤードが言ったように、あんなため息が出るようだと運も見放す。

 客引きは若い奴だったが、それほどたちが悪そうでもなかった。

「うちは安いし、いい子もいますよ。最近始めたんで店も綺麗です。何なら気に入った子がいたら店が終わった後で連れて行っても構いませんぜ」

 俺はじゃぁ、いい子をつけてくれ、と銀貨を握らせた。

 それほど通りの奥でもない店であれば、危険はない。そんなところで怪しい店をやればすぐに足が付くからだ。

 しかし、金はかかるから店のオーナーは貴族か大手の商店だろう。


 大きな木の扉を開けて中に入ると、思った以上に広く天井も高かった。

 客の身なりを見る限りでは貴族か中堅以上の商人のようだった。

 俺は一人だったので、それほど広くないないボックス席に通された。

 ベルベットのソファに腰を下ろして一息ついていると、女が来た。

「よろしくお願いします。アイリスと申します」

 俺も名乗ってよろしくと答えた。そして飲み物は任せた。待っていたようにボーイが酒を持ってきたのでさっそく乾杯した。

「初めてお会いしますね」

「最近、王国に来たんでね」

「帝国の人ですか?」

「そうだ。君は?」

 気心が知れたのか、アイリスの表情が緩んだ。

「帝国生まれだけど、すぐにこっちに来たんでもうすっかり王国人」

 アイリスは店の灯りで見る限りではなかなかの美人だ。目じりが上がって涼し気なところが良い。

「しかし、君みたいな美人を俺につけるとはこの店は儲けるつもりがないのか」

「あら、口がうまいのね」

 アイリスの口調がくだけてきたので、俺もようやく一息付けた。

「口はまずい方じゃないが、周りを見ればわかる。他の客が不満そうにこっちを見てるじゃないか。帰りが怖い」

 俺は笑った。アイリスはそれを聞くと俺の腕をぐっと握った。

「意外に怖がりなのね。でもだいじょうぶ。帰りは私と一緒」

 ただ者ではないが、そういう女は俺は好きだった。

 ついでに容姿も俺好みだった。


 

 

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