第11話 魔女の伝説
御者は馬車を降りてすぐ近くで仮眠をとる。
俺は車中で眠ってもいいのだが、外の方が慣れているので外に出た。
御者は降りてきた俺を見つけると話しかけて来た。
「あんたは商人には見えないな」
「元冒険者の商人みたいなものだ」
「ヒルデには何をしに?」
「ヒルデからオロスに行くんだ」
「商人があんな村に何の用事だ」
「宝飾の工房があるらしい」
御者は首をかしげた。
「そんなものがあるとは初めて聞いた」
「そうなのか。しかし、オロスから王都まではこの道しかないのだろう」
俺の問いに御者は頷きかけたが、何か思い出したようだった。
「使ったことはないが、村から王都まで昔使った道があると聞いたことがある。オロスには魔石が出る鉱山があったようで、戦争中にそれを運ぶ専用の道があったらしい。今はどうなっているかわからないが」
おそらく戦争後、蓄魔石の技術が発達したので、その鉱山は廃れたのだろう。魔石も蓄魔石として使えるが、再生魔石のせいで需要が激減してしまったのだ。
それをマヨラムの宝飾品に使っているということか。
少し黙った俺を見て、御者はふと悪戯めいた笑みを浮かべた。
「これは伝説みたいなものだが、オロスには魔女がいるって話がある」
「面白そうな話だな」
「それが見たこともないくらい綺麗な魔女で、ただその姿を見た者は呪われて呆けたようになって死ぬらしい」
「綺麗なのはいいが、呪いで死ぬとは穏やかでないな」
「いくら綺麗でも見ただけで死ぬのは御免だ」
そう笑いながら御者は横になった。
俺も仰向けになって、いつしか眠っていた。
翌日、ヒルデに着いた俺は宿屋を取って周旋屋にオロスまでの案内人を紹介してもらった。
トマスという若い男だった。元々はオロスの生まれだが、ヒルデに出てきて案内人をしているとのことだった。
宿屋で飯と酒を奢って前金を払ってやった。
「旦那はなんであんな村に行くんです?」
「何もないとは聞いているが、マヨラムの工房があると聞いてな。知っているか」
「ええ、何もない所ですから、何かできればすぐにわかります。私が子供の頃には木を切るくらいの所しかなかったですから」
「工房主を知っているかい」
「見たことはないですね。何でもほとんど工房から出ないらしくて、見かけるのはごくたまにだということです」
工房主がリリアであればわからないでもない。
「俺はそこで宝飾品の卸しを頼みたい。俺は帝国の人間でその手の商品を扱う
なるほど、とトマスは頷いた。
「しかし、これまでそう言う話が無かったことが不思議だ。王都でもう十年も商売をしていて王女御用達であれば、誰か話を持って行ってもおかしくない気もするのだがな」
俺はトマスに問わず語りで独り言を言ってみた。
「どうでしょう。私にはわかりませんね」
そう軽くいなされた感じだった。俺は何となくそれが気になった。
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