第9話 マヨラムの由来

 店員は商品を買ったせいか、嬉しそうに説明をしてくれた。

「ご説明もせずにお買い上げいただいたので、後からになりますが、実はイエナではマヨラムは身に着けた方々の魅力を強くするという評判が立っております」

「ほほう、それは何かわけでもあるのかな」

「当店のデザインをしておりますオーナーのリベルがこのブランドを立ち上げる時に、恋人たちのためにデザインをしようと考えたからと言われております。後ろにありますブランド名のデザインもリベルの発案で赤字に白になっておりますが、赤は愛、白は純粋を表現したものと聞いております」

「なかなかロマンチックな由来だ」

「また、当ブランドの髪飾りはイエナの第二王女であるメアリ殿下に求められ、以降、ご贔屓にさせて頂いております」

「ほほぅ、それは素晴らしい」

「まだ十年ほどの歴史しかないブランドですが、イエナでは若い女性にはなかなかの人気になっております」

「ありがとう。ところで、このマヨラムは王国にしかないのかな」

「ええ、マヨラムはこのイエナジュエリーと工房兼店舗でしか販売しておりません。すべて手作業で制作したいというオーナーの考えらしいのです」

「その工房兼店舗というのはどこにあるのかな」

「ここからはかなり遠いのですが、オロスという山に囲まれた村にあります。そこでも販売もしてはおりますが工房での製作が主で、ここで扱うようになったのも、そうした事情があるのです」

「なるほど、本当に職人の技で作られているのだな」

「ええ、でもお客様はどうしてマヨラムのものをすぐに見られたのですか」

 なかなか目ざとい娘だな。俺が入るなりすぐにここに来たのを見ていたのか。

「装飾品の店に入るなどほとんどなかったことなので、あまり周りを見る余裕もなくてね。そのブランドのプレートが目に入って気になったので、のぞいてみたんだ。君のおかげで色々と迷わずに決められて良かった」

 店員はそれを聞くと満面の笑顔で頭を下げた。

「これをご縁にこれからもご贔屓にお願いいたします。私はソニアと申します。何かありましたらまた、よろしくお願いいたします」

「ありがとう」

 私はソニアに差し出された丁寧に包装されたスカーフ留めを受け取り、上着のポケットに収めた。


 店を出ると、俺はあてもなく歩き出した。

 ようやくリリアにつながるヒントを得たが、たどり着くにはだいぶ回り道を強いられそうだと思った。

 しかし、確実にそこにたどり着く一歩を踏み出せたことは間違いなかった。とにかくこの細い道を迷わずに進むしかない。

 それにフィール侯爵に報告することができる事実を見出したことにホッとしていた。

 あれだけ大口をたたいておいて、手ぶらで帝国に帰る度胸は俺にはなかったからだ。

 

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