第8話 魔力の痕跡

 俺が振り向いた先には着飾った女の後ろ姿があった。

 その女からリリアの魔力が微かに感じられた。

 そのまま、少し後を歩きながら女の様子をうかがった。

 俺はそれを痕跡だろうと踏んでいた。本人であれば、こんな微かな魔力のはずがない。

 女は大通りに面したある店に入ってゆくのが見えた。

 そこまで行き、看板を見上げると「イエナジュエリー」とあった。

 店は大きく、ウィンドウにはおそらくはイミテーションであろうが、複数のブランドの見本が飾られていた。


 帝国ではあまり見ない紳士用のスカーフ留めなどもあったので、それを見る体で、さっきの女を探すべく店に入った。

 中に入ると俺はすぐにその痕跡の理由に気が付いた。

 あるブランドのコーナーから、フィール侯爵家でメイドが持ってきたブローチと同じ魔力が感じられたからである。

 あとをつけた女もそこにいた。

 俺は少し離れたところでそのブランドの名を確認した。

 「マヨラム」と書かれたワインレッドのプレートにアイボリーの文字がレリーフになっている。

 視線を降ろすとそこにあるガラスケースには様々なデザインの装飾品が並んでいた。


 気が付くと目の前に首元だけ白いレースをあしらったワインレッドのシンプルなドレスを着た店員が立っていた。

 さっきの女の相手をしている店員も同じデザインのドレスを着ている所を見ると、これがこのブランドの従業員の制服なのだろう。

「何かお探しですか」

 にこやかな表情で明るくその店員は俺に声をかけてきた。

「スカーフ留めなんかはあるかな」

「こちらにございます」

 そう言って、ケースの中に手を入れて、いくつか並んでいるコーナーを教えてくれた。

「お客様がされるのでしょうか」

「うん、最近王国から来たのだが、ここではその服装は地味だと言われてね。これからイエナ風に色々揃えようかと思って」

 店員は相変わらずにこやかに俺を見ると言った。

「それであれば、スカーフのお色にもよりますが、このバイオレットの色石のものなどは落ち着いていますので、よろしいかと思いますがいかがでしょう。石もさほど大きくなく、台のデザインもシンプルですので使いやすいと思います」

 入門用ということだろう。確かにこの店員の言う通りで初心者には申し分ないものだった。


 値段はそこそこしたが、帝国に戻ったらいつも世話になっているあの組合のマリアにでも上げれば少しは喜んでくれるだろう。

 そんなことを思いながら、勧められたモノをもらうことにした。

「こういう所はあまりこないので、正直な所宝飾品には疎い。なので、このブランドについて教えてくれないか。王国に戻った時に少々自慢したいのでね」

 俺は野暮なふりをして包装をしている店員に訊ねてみた。

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