第7話 組織オルガノ

 現在は帝国と行き来が自由なイエナ王国だが、五十年前、約三年間にわたる戦役があった。

 国土に対して野心を持っていたのは、イエナの方である。それと言うのも国土は帝国より広いものの、北方で高地がほとんどだったからである。

 イエナは鉱業や林業による採掘や伐採が主な産業で、それらを輸出し、食品や衣料品はほぼ輸入に頼っている。

 港も帝国が大規模な港を三か所有し、他の大陸との交易や流通に使用できるのに比べ、イエナには小規模な港が一か所あるだけだった。


 帝国がイエナとの戦いで有利だったのは、他の大陸との交易があったからである。そこからイエナと交戦中に手に入らない鉱物や木材の輸入が可能になったからである。

 他の大陸諸国は、イエナに勝利されるとせっかく開拓した輸出品が無くなることになり、経済的な損失は大きい。

 そのため、直接の介入はしないまでも、武器やその他の軍事物資を廉価に提供したのである。

 帝国にとっても、イエナに輸出していた食品や衣料品を他の大陸諸国に輸出することができ、それほど大きな経済的打撃を受けずに戦うことができたのである。


 停戦後、以前は帝国がイエナとの交易に依存していた鉱業や林業は、帝国が他の大陸との交易を開いたことで輸出量は激減し、イエナの復興には時間がかかった。

 そのため戦後、イエナ王国内での政治的な闘争は熾烈を極めた。

 大きな経済的損害を受けた経済派の貴族たちが、戦争を主導した武断派と情報統制派の貴族たちを糾弾し、対立した。最終的に王と王族が経済派を支持したことで、経済派貴族が政争には勝利した。

 敗れた武断派と情報統制派の貴族は、中央政界から追放された。その上、彼らを恐れる王の命令で、貴族から独立し王家直属となった王国軍と情報局によって、王家に対する反逆容疑者として監視下に置かれることとなったのである。


 帝国がこれに無関係だったはずもなく、不戦条約と戦後復興の共同宣言の締結条件として彼らの追放と監視の密約があったことは推して知るべしである。


 旧武断派と情報統制派の貴族は中央から追放され監視を受ける立場になったため、表舞台に立つことは叶わなくなった。

 だが、資産については手をつけられることもなかったため、彼らはこれを裏社会に投資し、組織を形成するに至った。

 実際には彼らが表面に出ることはなく、資金提供とその投資による利益回収を行う者として組織を統制をしていた。

 彼らが目指したのは、国境を越えて裏社会を牛耳ることだった。

 王国も帝国もこれに気づいた時にはすでに遅く、彼らの集団は両国をまたがる一大勢力となっていた。

 彼らは自分たちを「組織」オルガノと称した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る