第4話 失踪の事情
オットーの死を聞いたリリアは部屋にこもり泣き続けた。
誰も入れず、食事はかろうじて幼少のころから使えているメイドの訴えで口にしたもののしばらくはようやく生きているという様子だった。
その後、リリアは事情を聴かされたが表情は硬く、それ以降は口はきいても以前のような明るさを取り戻すことはなかった。
「私は事情が事情だけに何とも言えなかった。そっとしておくより仕方がなかった」
「この件について何かリリア様とお話はされなかったのですか」
「父から私はこの件には関わるな、と言い渡されていた。それもあるが、その時にはもう私が関わるには遅すぎた。だから、会って話せても大したことは話せなかった」
侯爵のいうこともわからないでもない。
事の次第に関わっていれば何かできただろうが、終わってからではできることはなかっただろう。
リリアがいなくなったのは、オットーが殺されてから半年ほど経った頃だった。ある朝、メイドが部屋に行くとリリアはいなかった。
カーテンが破られて窓が開いていたのである。縄がわりに破ったカーテンを使って庭に降りたのである。
おそらくリリアはたとえ途中で手を滑らせて落ちても死にはしないと考えたのだろう。
しかし、半年もたってなぜそんなことをしたのか。
「オットーが隣国で生きているという噂がたったのだ。見かけた者がいたらしい」
なるほど、だが、それは噂ではなく本当であってもおかしくはない。
元々貴族の子弟であるし、金を使えば偽装するのは難しいことではない。それにオットーは腕が立った。
いくら酔っていてもそこらのチンピラにやられるというのは変な話だ。
「結局リリアは見つからなかった。彼女は魔術に巧みだったからな。容姿を変えて身を隠すことくらいなんでもなかっただろう。その後、王都の商店でリリアが身に着けていた装飾品が何点か見つかった。それなりの金額を手にしたようだから、当分は金に困ることはなかっただろう。それに帝国で見つかった装飾品はそれほど値の張らないものだった。高価なものははイエナに行ってから処分したのだろう」
別人になりすまし金もあって隣国に逃亡されたとなるとどうにもならないだろう。それに足が付きやすい高価なものを帝国で処分しなかったのは、賢いやり方だ。
「依頼しておいてこういうのもなんだが、見つけ出すのは難しいと思う」
そう言ってフィール侯爵は深く息を吐いて腕を組んだ。
「保証はしかねますが、できないとまでは申しません」
「なかなかの自信家だな」
「いいえ、組合長の顔をつぶすわけにはいかないだけです」
なるほど、とわずかに笑みを漏らした。
侯爵はそれにもう一つやってもらわねばならないことがあると言った。
「リリアには決して戻るなと伝えて欲しい。わけは訊かないでもらいたい」
そう言われると聞けないが、見つけておいて帰るなというのはおかしい。そもそもなぜ、十年たった今になって探すのだ。
俺は承知しましたと答えたが、なんの手掛かりも持たずに人探しはできない。
そこでリリアを探すために必要な物を頼んだ。
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