第5話 託された物

 俺がフィール侯爵に頼んだのは、リリアの魔力が分かるものだった。

 ひとしきり考えると、侯爵は呼び鈴を鳴らした。

 すぐに俺を案内してくれた執事がやってきた。

「メアリに来るように言ってくれ」

 一礼すると執事は下がり、しばらくすると品のよい初老のメイドがやってきた。

「リリアの魔力の痕跡のあるものは何かないか。なんでもよい」

 メアリはしばらく俯いて瞑目していたが、何か思い当たるものがあったようで目を開けた。

「以前、お嬢様が私に下さったブローチがございます。なんでも魔術の先生に教えてもらって護身魔術を石に込めたとおっしゃっておられました」

 それは俺が思った以上の獲物だった。

 俺が頷くと侯爵はすぐに持ってくるように告げた。

「魔力でわかるスキルがあるのか」

「いえ、スキルではなく加護です。こればかりは訓練では身に就きませんので」

「なるほど。それでは何かは聞くまい」

 加護は神授のものとされており、皇帝と言えども問うことは許されない決まりがあった。

 その加護の力で俺はそれぞれの人が持つ魔力を感じ分けられた。

 特に魔力が強ければ強いほどわかりやすい。

 スキルにも似たものはあるが、属性の種類までしかわからず、誰の魔力かまでは感じることはできない。

 リリアが姿形を変えることはできても、魔力が無い者のように偽装することはできないだろう。属性を隠蔽することは可能かもしれないが。


 メイドのメアリが現れると、ブローチを侯爵に渡した。

「お前にとってこれはリリアを忍ぶものであろうが、リリアのためと思って私に預からせてほしい」

 メアリはそう言われ、微かに目が潤んだのが分かった。

「承知いたしました」

 そう言ってメアリは下がり、侯爵はそのブローチを俺に渡した。

 俺はそれを念のため魔術封じのケースに収めた。

「それからこれを渡しておく。その品はリリアと対するには必要なものだ。そして書面の方は必要な時に使うと良い」

 俺はそれらを受け取り、上着のポケットに収めた。

 すると侯爵は俺に、良い報告があることを待っているとだけ言い残して出て行った。

 用が済んだ俺は屋敷を後にし、旅支度をするために部屋に帰った。


 部屋で預かったブローチを見ながら、侯爵から聞いた話を頭の中で反芻していた。

 俺は事実だけをメモに書き記し、侯爵の考えは排除してリリアや関係者の行動を考えてみた。

 一見すると侯爵の言うことには筋が通っているし、おかしなところは無い。しかし、俺には失踪したリリアの心がわからなかった。

 何かが引っかかるのだ。おそらくは実際に会って話をしないとわからないだろう。

 俺はそう考えると、これから向かう王国での調査もただの人探しでは済まないなと思った。

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