9.戦いの始まり
「来たわね!」
すかさずマリクが部屋の明かりを灯す。そう、二人は明かりを消すことにより、寝たふりをしていたのだ。
「行こう!」
ソファから起き上がったユーリティスが、そばに置いていた剣を携える。マリクも剣を手に取ると、二人は門の前へと急いで走った。
門の内側に到着すると、すでにそこにはシーグラス達とロードグランの騎士たちが待機していた。
ユーリティスは門番に静かに頷いてみせる。
ギギィ……と屈強な門が音を立てて開くと、表にはすでにファーランの軍が勢揃いして待ち構えていた。
だがこちらも、待ち構えていたのは同じだ。ユーリティスの後ろには、リングジルド第二騎士団とロードグランの隊がずらっと並んでいる。
相手の、ファーランの代表と思える男の表情に動揺が走ったのを、ユーリティスは見ていた。
リアムの話によれば、ロードグランの隊が来ているのは知っていたはずだ。しかし、実際に見ると彼らの黒い鎧は闇の中でも鈍く光って、威圧感を出している。
実際、ユーリティスも背後の騎士たちから感じるオーラのようなものを頼もしく感じていた。
「お初にお目にかかる!リングジルド騎士団長、ユーリティス・ランディールだ。かような刻限の呼び出し、いかなる事か説明頂きたい!」
1人、前に進み出てそう言ったユーリティスのに、答えるように相手の代表も前に進み出る。
「我が名はカジン!此度そちらに人質として捕えられた兵士の身柄を返して頂きたく再三の申し出をしたが、数日待たされた上、未だ返答がないためこうする他なかった。騎士団長殿におかれては、この件をいかがなさるおつもりか!場合によっては、こちらはいつでも用意が出来ている!だが、まずはそちらの誠意を伺いたい!」
『誠意』
その言葉に、ユーリティスは心の中であざ笑う。『誠意』=『金銭』のなんとくだらない表現か。
いつもの慣習ならば、ここでリングギルドの方からファーランに『詫びの品』が渡されるところだ。
しかし、ユーリティスは言葉を続けた。
「カジン殿、誠意とはどのような事であろうか!人質の開放以外に何があると?」
ファーラン側の兵がざわついた。カジンも、今度は動揺を隠しきれていない。
それほどまでに、異例の事態だったのだろう。
「ユーリ!」
シーグラスがたしなめるが、ユーリティスはやめようとしない。
一歩、一歩進み出る。
「貴国とはこれまで何度もこの様なやり方を繰り返してきた。その度、貴国はこちらに金銭を要求してきた!いつまでこの様な事を続けるおつもりか!」
後ろでシーグラスが諦めたような気配を感じながら、ユーリティスはさらに歩を進める。
反対に、カジンは一歩押されたように下がる。
「……騎士団長とはいえ、所詮は女がっ、偉そうにいいおって!」
カジンが苦虫を噛み潰したような顔でうめく。
「貴様っ!」
シーグラスが剣を抜こうとするのを、ユーリティスは手で制する。
「そう言いながら怯えているのはそちらだぞ、カジン」
「分かっているのか、今、お前がしている事が国家間にどう影響するのか!」
「そんなものは承知の上だ。もとより私は私の代でこんな腐った慣習をやめるつもりでいたのだから」
「くっ……!こうなったらっ」
カジンが剣を抜いた。と同時に剣を抜いたユーリティスが素早くカジンの剣を弾き飛ばした。
剣が中を舞い、ザクッとカジンの後方に突き立った。
一瞬の間。
「かっ、かかれ!」
カジンの声を合図にファーラン側の兵たちが一斉に剣を抜く音がした。
シーグラス達、リングジルド側とロードグラン隊も臨戦態勢に入る。
場は一瞬にして戦場と化した。
女騎士団長は戦鬼の生贄になるつもりはない 雪兎(キヨト) @setuto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。女騎士団長は戦鬼の生贄になるつもりはないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます