6.マリクが見たもの
翌朝、マリクに起こされたユーリティスは、初め自分が何故ここにいるのか分からなくて、混乱の中昨夜の記憶を順にたどる事となった。
夜中に目が覚め、窓を開けたらリアムを見つけ、一階の酒場に行ってーーーミルクを飲んだ。
そこから先がプッツリ途切れている。ミルクは甘くて美味かった。その余韻のまま、朝目覚めた。
マリクにその話をすると、ああ、と思い出すように彼女は頷いた。
「夜中にノックの音がして、見たらユーリがいないから貴方だと思って開けたの、そしたらねーーー」
そこで言葉を切って、マリクはニマリと心底楽しそうな笑みを浮かべた。
「そ、そしたら?」
ドキドキと、ユーリティスの心臓が音をたてた。マリクの次の言葉を待って、息を呑む。
「何と!リアムが!」
「リアムが?」
そこから先は何故かマリクは耳打ちで話しだした。
「……眠るユーリを抱きかかえて立ってたの」
「ーーーなっ!?」
驚きのあまり大声を上げかけたユーリティスの口を慌てて手で塞いで、マリクは必死でシーっと黙るように指示した。
黙ることを約束したユーリティスの口から手を退けるマリクは、昨晩の光景をまた思い出してニマリとしてしまう。
「いやあ、王子様って感じだったなぁ~」
「王子?リアムは騎士だが」
「違う違う!そうじゃなくてー、カッコ良かった!って事!」
真面目な顔で役職の訂正をしてきたユーリティスを、マリクは呆れたように見やる。
「私は『黒龍の戦鬼』よりよっぽどリアム派になったね、うん」
頭に?を浮かべるユーリティスを放ったまま、彼女は語り始める。
「シグはさ、幼なじみポジションではあるけど、イマイチはっきりしないというか、行動力がないというか」
シグ、とはシーグラスの略称だ。マリクは誰とでもすぐ親しくなってしまう人間なので、略称で呼ばれても皆気にならないようだ。
「でもこの前までは『黒龍の戦鬼』に渡すくらいならシグしかいないって思ってたのよ!」
マリクは一人で熱く語っているので、ユーリティスは口を挟む暇がない。
「でも昨日ので俄然リアム派になった!もう、ユーリを託すのはリアムしかいないわ!!」
ユーリティスには何の話かさっぱりだが、こうなったマリクを止める事は困難だ。どうしたものかと思案しているとーーー
「団長殿、マリク、朝食行きませんか?」
ノックの後にシーグラスの声がして、マリクがピタッと口を閉ざす。やっと静かになったなと思いながら、ユーリティスは『すぐ行く』と返事をした。
朝食の後、ユーリティス達はすぐにカッサルを旅立った。次に目指すのはムスナという村になる。ここはもう小さな村になってくるので、野宿必須で、食料調達は出来るか分からない。
ただ、動物が多いので狩りなどでまかなう事が可能だ。
「お腹空いてくるとさ、飛んでる鳥とか走ってる鹿とか旨そうに見えてきちゃうよねー」
そう隣で語っていたリアムは、途中、昨日聞いたばかりの『馬上で寝る』を見事披露してくれた。
ユーリティスとしては、落馬しないかハラハラしてしまい心臓に悪かったのだが。
夜はムスナの近くの森でいくつか天幕を張り、それぞれ寝袋で眠る事になる。
ここで、リアムの提案により今回の任務に関する会議が開かれた。会議は近くに猟師の為の小屋があったので、そこを借りる。
メンバーはリンクジルドからユーリティスとシーグラス、ロードグランからはリアムとその部下であるファリドが参加した。
ファリドはこの中では一番の年上だった。おそらく40代くらいではと思われる。体格もかなりよく、大斧を軽々と振り回しそうな感じがする。戦い慣れしていそうだ。さすが、大国ロードグランの戦士というべきか。
リアムとはまた違う強さを持っていそうだった。
挨拶を交わした際、ファリドは一瞬ユーリティスと目線を合わせてきた。
ドキリとしたが、ユーリティスはにっこりと笑ってみせる。すると、ファリドもその強面からは想像出来なかったくらいの優しい笑顔を見せてくれた。
頃合いを見計らって席につく。簡素な木の椅子だが、座り心地は悪くない。
「今日は、今回の任務の前に俺から話しておきたい事があって集まってもらったんだ」
と、リアムが切り出して、一同は真剣な面持ちになった。
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