第22話






「いやよ」

「断ってんじゃねーよ。さすがに僕の心臓が持たないから出ていくって言ってるんだ」

「いいじゃない。死んでも」

「ダメだろ。僕のことどう思ってるんだ?」

「なかなか壊れない愛し子?」

「壊そうとしてるじゃねーかっ!」


このクソエルフは近頃、僕を壊そうと遠慮が無くなっている。

愛し子というように気に入られているということなんだろうけど。

今朝なんて――


『上に乗るのが好きなの』


――とか言いながらはだけた格好で馬乗りになって起こされた。そして即気絶。

昨日はねっとりと絡んできて耳元で囁き攻撃。気絶。

最近はそんな感じでドキドキしすぎる。それで気絶しすぎなのか心臓が痛い。自然回復力を上げる治癒魔法が追い付かないペースだ。


「わたしを捨ててどこに行こうっていうのよ」

「捨てるというか、命を拾いたいんだけど」


単純にね。


「はぁ。……目的があるわけじゃないんだ。ただ強さはもう十分。目標を共有できる友達が欲しい」

「友達? 恋人ならわたしがなってあげるわよ」

「それは果たしてそれは一般的な恋人なのか? それは置いといて、僕は人並みに死ぬことが怖いからね」

「恋人ならなってあげるわよ」

「ん?」


ミティシアの表情がなんか変だ。顔を真っ赤にして怒ったように睨みながら同じ言葉を繰り返した。


「もしかして本当に僕と恋仲になりたい……のか?」


彼女の様子を伺いながらそう尋ねると、小さく頷く女の子がそこにいた。

かわいくね?

これがあの悪女なのか。まるで恋を知ったばかりの少女のようだ。


「普通の恋に憧れていたの、だから……」

「っ!!?」


そこで泣くのは卑怯だろ。

理性が飛ぶところだった。とっさに舌を噛んでなければ死んでいるところだ。


しかし見た所、悪辣な今までのミティシアはいない。

逃げきれる自信もないし、条件を付けてみることにした。僕についてくるなら殺されかけるのはなしだ。


「もちろんよ」

「絶対に激しく誘惑をしたらダメだからな」

「ふふっ、激しくなければいいのよね。それはそれで楽しいそうだわ」


彼女は提案に乗った。

僕は旅をしたい、それに大人しくついていくというのが提案の基本。恋仲になるかどうかは今はそう言う目で見れない。しかし彼女の気持ちは尊重したい。旅の中でお互いにそういう気持ちが芽生えれば寄り添う関係になるのではと。

しかし強引なやり方は禁止だ。別に彼女も僕を殺したくはないらしい。ただ過去のことは気持ちが高まった結末が、悲劇で終わってしまった。それがあったからこそ普通の恋愛に憧れたそうだ。


今のミティシアに対する僕の印象は奇妙な関係になってしまったお姉さんだ。

師匠でもあり悪女でもある彼女は、少女のような表情も見せた不思議な女性だ。あの告白があるまで恋愛対象として見てすらいなかった。それが一緒に旅に出るとは不思議な巡り合わせだ。


「旅は久しぶりね」


あまり自分の家に執着はないらしい。

格好もフードを被った外套に普通の女性冒険者が来ているような動きやすい服。

しかし驚いたのは姿こと。『美肌再生膜』だそうだ。つまり美肌パックのようなもの。今回は老婆じゃなく、白髪が少し見える年頃の女性エルフに魔法で顔を変えている。僕を誘惑するのに最近パックをしていないので、しばらくはパック生活だそうだ。


まずは街に戻り、転出手続きを済ませる。

ミティシアも商業ギルドで休業届を出し、冒険者ギルドでは復職手続きを済ませる。引退した冒険者が復職することは珍しがられた。

期間が開きすぎているので僕と同じC級として復帰。僕たちはパーティーを組むことにした。

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