第20話
「なら次ね」
「っ!!」
ミティシアに精神干渉とおぼしき魔法を掛けられた僕は、一時的に抵抗に成功した。
しかし彼女が椅子から立ち上がると体の自由が奪われたように動けなくなる。
今度は痛みで抵抗することは無理なようだ。
トン、と近づいて僕は押される。尻もちをつき、床に座り込んでしまう。
必死で色々な抵抗を試みるがやはり体は動かない。
「…………?」
抵抗をしながら次は何をされるのかと構えていたが、特に何も起こらない。
そう思っていると自分の意思と関係なく、独りでに顔がミティシアの顔を見るようにゆっくりと上がる。
くっ! やはり目を奪われる。
彼女はカメラを向けられたモデルのようにゆっくりと動いて僕に姿を見せつける。
息が荒くなり、興奮しているのが分かる。
男性ならばこの魅惑に抗うことは不可能と思わせるほどの引力だ。
もしこれが蠱惑的に本気で誘われたらどうなる?
そんなことを想像し、恐ろしさで一瞬で頭が冷えた。
顔色を変えた僕を見てミティシアは初めて攻撃的な顔を見せた。
しばらくしないうちに意識が飛んた。
気が付くと外に放り出されていた。
今日は良く眠れる日なようだ。
冗談はさておき、ミティシアの意図を考えてみる。
『次』と言ったことから魔法の修行の1つであるとは思う。
だが一方で彼女は楽しんでもいるようだ。問題はその割合がどのくらいかということ。
実は修行としての効果はそこまでありませんでは、ここに長居する意味がないからな。
そういえば『若作りババア』とアジフが言っていたな。
老婆とあのミティシアが同一人物というのは本当だとしよう。ならどこまで本物で何が魔法なのか、少なくともそれを見極めるまではここにいよう。
ぐぅという腹の音が鳴り、もう昼なのにまだ朝食を摂っていないことを思い出した。
家の中に入ったら、きっとさっきの繰り返しだ。火を起こして持ち合わせの穀物で粥でも作り、食べるとする。
「なるほどね」
どうやら成功なようだ。意識を操られている感覚はなく、感心したミティシアの声が聞こえてた。
今度は目を瞑り、『ヴィジョン』で見ながら家に入った。俯瞰的に僕の後頭部を写すような視点で映せば、行動に支障がないし、目を奪われないかもという目論見も成功した。
現在ヴィジョンは2カメラ状態。もう1つは魔力感知特化。手の形のもやのように僕の顔にミティシアの魔力が絡みついているのが分かる。
さて、次は何を仕掛けてくるのか。
ミティシアは僕にゆっくりと近づく、これで逃げ回るのは意味がない。よって動かないようにした。
彼女の指が僕の胸に触れ、スーッと撫でる。
あっ、こりゃダメだ――――
何度目かの気絶。
どうやら抵抗は難しいらしい。
「そろそろ説明をしてくれないか?」
そろそろ頭打ちになったと思った僕は素直に降参してみることにした。
もしかしたら返ってこないと思ったが一応返答はあった。
「わたしは美しい」
あの、ちゃんと受け答えをしてくれませんかね?
あなた昨日は老婆の姿で顰め面でしたけど、ちゃんと人らしくやり取りできてましたよ?
「それがわたしの魔法の極意よ」
「へ?」
魔法の極意?
言いたいことはよく分からなかったが極意とまで言われたのだ重要な言葉だということは分かる。
しかしここで考え込むことは許さないらしく、外へ追い出された。
真意を考えてみよう。
短い言葉だ、意地の悪いミスリードがない前提で彼女の魔法を思い出す。
精神干渉の他に彼女自身に効果がある?
そこで1つ関係のありそうな魔法が思い浮かんだ。身体強化魔法だ。
イメージがズレると怪我をするこの魔法は高度なイメージができるほど強力になる。僕はこれが苦手だ。
微力な身体強化ならばイメージはしやすいが失敗をした経験のある出力を出そうと思うと怖さが先に来てしまう。
つまりミティシア・ライルバードという魔法使いは強烈な自己暗示によって肉体を理想形に変化、その絶対の自信により相手を魅了するのではないか?
「正解よ」
答え合わせを申し入れるとあっさりとそれは認められた。ただしまだまだ工夫があるとも付け加えられた。
「ところで気になってたんだが、なんで不便なこんな辺境で住んでるんだ?」
もしかしてこの魔法を使うのに制約があるのでは、と思った程度の軽い気持ちだった。
「大勢の人と関わるのが煩わしい。…………吹き出物ができちゃうわ」
ニキビで引きこもるとか思春期かよ。
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