第16話
「くっ! 対応が早い」
「「グギャギャギャァ」」
2つの方向から石が飛んでくる。それもかなりの速度だ。
僕は今、ロンコッコ山浅瀬部分最悪の魔物、山ゴブリンの群れに襲われている。
先日無傷のトレントを3度納品したところ、買い取り価格は下がってしまった。よってしばらくはトレントと戦う必要はなくなった。
森に慣れた僕はもう少し活動範囲を奥に広げる。
そこで遭遇したのが山ゴブリン。
亜人種は環境により個体差や脅威度が変わる。しかし人と同じように個体ごとの身体能力や魔力はそれほど差があるわけではない。
それよりも知能だ。集団行動を取ることで脅威度が上がる。
ここの山ゴブリンの特徴は魔力で少しだけ身体能力を上げることと笛を使い仲間を呼び寄せる知能があること。
それだけの違いでゴブリンがC級上位の脅威度まで引き上げられた。
僕はまず、サーチで30メートルほど先の山ゴブリンを発見した。すぐに身を屈めた僕は、周りの魔物がいないか確認。
しばらくのち、僕と距離が近い山ゴブリン2体になったところで先制攻撃を開始した。
姿勢を低くしていたため、石を投げて狙撃で2体を狙う。
1発は頭部に当たった。もう1発は肩に当たった。
次の石を数発、山ゴブリンが体勢を崩す前提で投げた。
最初の石に当たった姿以外は距離もあるし、茂みで見えず様子はわからなかった。
ただ笛の音が聞こえた。仕留めることができなかったのか、仲間が倒れたのを見ていたのかだ。
他の山ゴブリンたちはサーチで見つけれなかったが、思いのほか近くにいたようだ。
僕は見つからないように引き続き姿勢を低くして、茂みや低い木の枝が揺れや音を頼りに石を投げた。
何度か聞こえる山ゴブリンの叫び声。
何体かは戦闘に支障をきたす怪我を負わしたと思う。
しかし僕のいる方向と大体の位置がバレた。
山ゴブリンは増援を呼び、怪我をさせた以上に数を増やした。
僕に迫る音がより大きくなった。
このとき僕は逃げることを決めた。
立ち上がり、背を向けて走る。
そこへ狙いすましたような投石。運よく当たらずに、僕の体の近くを通り過ぎた。
背筋がゾッとした。
山ゴブリンが投げる投石は2種類。手で投げる方法と革のスリングを使って投げる方法だ。
前世の古代の投石兵はこぶし大の石を100mほどの距離を飛ばしたという。魔法で強化し、人間よりも力の強い魔物が投げる石だ、当たれば無事で済まないだろう。
必死に魔法を出し惜しみせず、なんとか無傷で逃げることができた。
しかし石が何度も音を立てて近くを通り過ぎる恐怖で精神的な疲労は大きかった。
常に余裕があった冒険者活動はさきほどの恐怖体験で死と隣り合わせであることを確認した。
この日は仕事にならなかった。森へ再び入ることが怖かったから。
「帰って寝よう」
宿に帰って、ベットで横になっても森での出来事を考えてしまう。恐怖がこべりついていた。
「……行くか」
珍しく昼まで部屋に引きこもっていた僕を、宿のおばちゃんが心配した。その声で弱くなった心をねじ伏せ、再び森へ足を運んだ。
山ゴブリンの殲滅は商業ギルドの出した課題の1つだ。
やつらは森に近い道を通る通行人や馬車をたびたび襲う。商人たちにとっては重要案件だ。幸いなことに迂回路は存在したが不便なことは確か。
だがここは辺境の地、なかなかB級以上のパーティーが来ないし来てもC級の依頼は後回しにされがちだった。
僕は壁を乗り越える意味でもこの仕事を完遂しようと決めた。
魔法は実は物理攻撃の防御に向いていない。だから僕は石や紐分銅を飛ばす攻撃をメインにしている。
つまり万能ではなく、制限がある。今回の条件で僕が一方的に攻撃をする画期的な方法は思い浮かばない。
なら僕ができるのは地図を描くことだ。
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