第15話
「すまない、人を探してるのだが」
「はい。どのような人ですか?」
「知り合いに聞いた話だが昔はB級冒険者だったらしい。だが今はこの辺りに住んでいるらしいとしかわからない」
受付嬢は困ったような顔で上司に相談してみると言うと、事務所入っていった。
僕の探し人の名はミティシア・ライルバード。種族はエルフだ。アジフとパーティーを組んでいたのは30年ほど前。魔法使いとして一流だったとのことだ。
しかし彼女の変人エピソードの1つが冒険者を辞めた理由にあった。『飽きた』だそうだ。パーティーは解体。それだけ彼女の力がパーティーの中で突出していたという裏付けでもある。
ちなみに冒険者を始めたきっかけも独特で、酔っ払ったアジフとケンカをしたことらしい。出会いは最悪だったがお互いに長命種という共通点もあり仲良くなったそうだ。冒険者はノリで始めたとのこと。その時からすでに彼女は強かったそうだ。
山に住んでいるということは人づきあいに疲れたというところだろうか。それとも特殊な事情があるのか。会ってみないことにはわからない。
そもそもすでに冒険者を辞めた人物だ。ここには情報はないのかもしれない。
その懸念は的中した。冒険者ギルドでは分からないと言われた。
「情報はありませんでしたけど、この辺りに住んでいるなら商業ギルドなら分かるかもしれませんよ」
「なぜ商業ギルドに?」
「なにかしらで生計を立てているなら取引があるかもしれませんよね」
「なるほど」
言われてみれば分かりそうな話だが、出てこなかった発想だ。冒険者として生きていくことばかり考えてみたが、落ち着いたら国や組織について調べるのもアリかもしれない。
「ああ、ミティシアのばあさんに会いたいのか」
「!! どこに住んでいるのか教えてくれないか?」
商業ギルドを訪ねた時、最初は門前払いをされそうな雰囲気だった。
しかしC級の冒険者証を見せると手のひら返しで対応が良くなった。やはり社会的信用の高いC級になっておいて正解だ。
僕の若さは第一印象こそ悪く働いたが、それがひっくり返り『若くて将来有望』という印象になった。
応対は受付をしていた若い男から恰幅のよい管理職の男に変わり、応接室に通された。
だが男は下手には出ない。太々しいほどにどっしりと構え、丁寧な言葉は使わずにしゃべる。
「分かった。だだ仕事を受けてもらおう」
「報酬は?」
「もちろんちゃんと出す」
こちらが上だと言わんばかりの見下すような態度。なるほど言いたいことは伝わった。
まずは腕前を見るために商業ギルドが出している塩漬け依頼の1つを終わらせろとのことだ。
「なかなかに厄介なそうな山だな」
ロンコッコ山の周辺は深い森に囲まれている。頂上付近にはあまり植物が生えてはいないが、それは冬に雪が積もるからだろう。森は中腹辺りまで続いている。
C級ともなると、仕事を請け負う際には複数の依頼に目を通すことが普通だ。
1つだけだと目当ての標的に遭遇しない可能性が高く、生息区域の被る他のものに遭遇する可能性が高い。もし誰かが先に依頼の納品を終えていても、減額はされるが大抵は買い取ってもらえるのもその理由だ。
今回の場合、採取系の依頼は目を通さない。ここの森や山に慣れていないからだ。
商業ギルドからは条件を出されているが期間を定められているわけではない。まずは安全第一に浅いところから回ってみよう。
「……魔物か」
ところどころで大量の魔力が使われた残滓が狼煙のように上がっているのが見えた。
魔物。読んで字のごとく魔力の高い動物のこと。
街の辺りは安全だがロンコッコ山周辺の森は魔物が出る危険地帯。C級冒険者以上じゃないと足を踏み入れるのは自殺行為。
僕はソロだ。実績を積むまでは森深くの探索は止められている。
魔物には何回か遭遇したことがある。『サーチ』で魔物や魔力の強い人の反応を読み取れるようにしてあるから近くにいれば感知できるだろう。
森を進むと魔物を見つけた。
トレントだ。
周囲の木に擬態し、不意打ちを仕掛ける植物系の魔物。獲物を半殺しにして根で栄養を絞り尽くす。
サーチがなければ近づいても周りの木と区別ができなかっただろう。
僕は足を止めて考える。
こいつは生命力が強い。幹の部分が木材として金になるが、倒すには幹の部分を攻撃し続けなければならない。
じゃあ、仕留めなければいいじゃない。
動かないトレントに分銅を飛ばし、枝を5本同時に折る。
叫び声こそ上げないが痛みでもがく擬態した魔物。枝を伸ばして反撃を試みる。
遅い。
本来は近づいて攻撃をするトレントは僕にとっては弱者でしかない。枝は削られるように折られ続ける。
枝がすべて折られたら、次の攻撃手段は根だ。根は数こそ多いものの、枝より遅く楽に処理できる。
こうして攻撃手段のなくなったトレントはほぼ丸太状態。僕に運ばれて生きたまま納品された。
「1人でトレントを運ばないでください。騒ぎになってましたよ」
「いやいや、トレントはただのC級の魔物。僕が狩るのは普通でしょ?」
「あなたの見た目と大きな生きたままのトレント、それで人々は驚いたの分かってます?」
どうやら悪目立ちしたらしい。
でも余力はかなりあるし、森の奥に向かうならこのくらいの獲物ならば普通になるだろう。
別に自重をする必要はないな。
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