第13話





「ティム、俺たちのパーティに入ってくれ」

「メリットはなんだ?」

「メリット?」

「僕はソロだがD級の仕事で困っていない。お前らのランクはなんだ? 僕にどのような役割を求めている?」

「「「…………」」」


まったく、話が成立せんヤツらばかりが勧誘してきて困る。

僕が強いことは知れ渡ったが、具体的に何かを求めて声を掛けているようなヤツが全くいないのだ。


このようなことを何回も体験すると、基本教育の大切さがよく分かる。

C級のパーティーからも声を掛けられたが、どうやら頭の中身はそれほどさっきの連中と変わりがない。丁重にお断りさせてもらった。

そもそも30を超える和の計算をするだけで驚かれる世界だ。冒険者にまともな思考回路を期待しないほうが良いだろう。


話は変わるが、ここのギルドにはほとんどB級以上の依頼は来ないらしい。つまりここにいてもC級で頭打ちになる。

そういうわけでC級に上がり次第、街を出るつもりだ。


ここらの動物を狩る依頼は僕にとってそれほど難しくなかった。狩るだけならば故郷のジャングルの方がよほど手ごわい動物は多いくらいだ。

D級の中でも危険と言われるクマくらいの大きさの動物、マグワノキツもあっさりと倒してしまった。目立たないためにその場で解体をし、食べれる分の肉を食べ、あとは毛皮を剥いだだけにしておいた。

そんなわけであっさりとC級昇格試験。




「試験官のドーモンドだ。あくまでも公平な評価をするために余程のことが無ければ声は掛けんからな」

「よろしく」


C級冒険者には個人の強さが求められる。そこはアジフをはじめ、数人の職員からお墨付きをもらっている。

今回の試験は総合能力の評価。提示された課題の中からミセワカという鳥とシンビクハという小動物を小さな傷という条件で狩ること。マグワノキツ以上の危険度の生物を狩ることを選んだ。


冒険者としての実力は事前に情報を集めることも含まれる。

C級昇格の試験内容はギルドで公開されている。それはD級昇格時に案内されるが、そのことを忘れ、何もせずに試験本番を迎える人間は間違いなく落ちる。

森の中などエリアごとに生息する生き物の情報もギルドで公開している。情報の閲覧には金と保証金が必要だが細かい内容ゆえ、読み上げはしてくれない。つまり字が読めることもC級に求められる技能なのだ。

ゆえに世間ではC級からがちゃんとした職業として扱われる。


「狩ったぞ」

「は?」


あっさりとミセワカとシンビクハを狩って見せた。今回のために五寸釘のようなデカい針を用意した。これを飛ばして貫けば小さな鳥でも大きな傷が入ることなく仕留めることが可能だ。


残りは危険生物のみ。

森を歩いているとオークという3メートルほどの亜人を発見した。戦ったことはないC級相当の害獣だ。しかし僕の実力ならば問題はない。


「アレを殺せば合格でいいんだよな?」

「ああ」


試験官を返事を聞くと同時に動く。

どうせC級に昇格するのだ、石蹴りを解禁することにしよう。


あえてこちらが見えるように無防備にオークに向かって歩いて近づく。

当然、僕を見つけたオークは距離を詰める。

後ろで動揺しているような声が聞こえるがあえて無視した。


距離は約10メートルまで縮まった。予定通り石を蹴る。石はオークの腹に当たるがまだ立ったままだ。

続いて2発。今度は顔と胸。すぐにピクリとも動かなくなった。


「合格でいいよな?」

「…………っ。……合格だ」


どうやら試験官をかなりびっくりさせてしまったらしい。

だが1発で倒れなかったくらいだ。やりすぎということはないだろう。

オークは害獣。右耳を取っておいた。


ギルドへ戻り手続きをする。

新しい冒険者証は新しくなったプレートに名前を刻むので数日が掛かると聞かされた。





「アジフ」

「おう、小僧元気じゃったか?」

「C級冒険者になったぞ」

「かぁーそんなあっさりかよ。ワシでも3年は掛かったぞ」

「そうなのか。ところで今日は渡すものがある」

「おっ! そりゃあ蒸留酒じゃねぇか!」


やはりこの昇格はかなり早いらしい。ギルドの中でもかなりの騒ぎになった。

短い間だったが世話になった職員たちにも贈り物をした。意外なことに、この世界にも菓子折りのような商品があって驚いた。


「冒険者証ができ次第、街を出ようと思う。酒は世話になった礼だ」

「コレ高かったじゃろ?」

「ああ。僕はまだ酒は飲ないから、なんでこんなに高いのかさっぱりだ」

「いくらだった? お前、値段知らんかったらぼったくられてねーか?」

「銀貨2枚だな」

「ああ。禿げたおっさんの酒屋か? やられたな」

「マジかよ」

「少し柔らかくなったな」

「……ホントにそう思うか?」

「だがまだまだダチはできそうにねーな」

「はぁ」


アジフのからかい気味な評価を素直に受け取る。

僕は価値観を共有できる友人が欲しい。友人ができれば楽しい日々を過ごすことができるだろう。

僕はまだこの世界を楽しめるのか不安に思ったままだ。

今はやることがあるが、あっさりと冒険者のランクを上げてしまったように簡単に頭打ちになるかもしれない。


一方で実力はある程度隠さないといけない。自由を奪われないために。

C級冒険者程度では立場の強い人間との接触には細心の注意を払わなければならない。

世界最高峰の冒険者になればそのようなしがらみを気にする必要はないと聞くが、僕は魔力量が少し多いだけの只の人間、なれる気はしない。


「ロンコッコ山というところに変わり者のエルフがいる」

「いきなりなんだ?」


僕が1人で勝手にネガティブなことを考えていると、アジフが変なことを言い出した。


「若作りのババアだがお前と同じくらい変なやつだ。しかし魔法の達人、教えを乞え。それに案外、変人同士気が合うかもしれん」

「変人は余計だが、特に目的もないしな。いいよ行ってみる」


しかめっ面のドワーフはニカッと笑顔になり、贈った酒を飲みはじめた。

こいつには世話になったが酔いが回るとウザくなる。じゃあなと声を掛け、シウナデの街に帰ることにした。

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