第12話





「おめでとうございます。あなたはD級冒険者に昇格しました」

「どうも」

「次回は隣のD級受付で仕事を受けてください」


D級昇格へは試験は存在しないらしい。C級はちゃんと試験があるそうだ。

D級冒険者でもE級の常駐依頼を受けても問題はない。昇格をするデメリットはE級の仕事はE級冒険者に優先的に回されること。ただし頼まれた塩漬け依頼を消化するなら問題はないが仕事を取るのは悪評が立つ。


本来はソロのティムがここまで早く昇格することは異例だ。しかし彼の実力の一部を知るものからしてこの処置は当然。

だが外部の人間がこの事態を面白がるわけはない。


「おめえ見ない顔だな」

「ツラ貸せやぁっ!」

「…………」


僕に絡んできたのはE級冒険者の3人組。

ギルド内部でのトラブルは素手で1,2発殴る程度なら見逃される。しかし合法的にもっと痛い目を見せようと思ったら、外に連れ出すか訓練所で模擬戦をするしかない。

こいつらは模擬戦を仕掛けてきた。僕にとってはお客さんだ。


「ティム、やりすぎるなよ」

「ええ」

「なにコソコソしてるんだぁ、こらぁっ!」


訓練場に着いたときにいつの間にか職員のリックがいた。どうやら立会人になってくれるらしい。

僕とリックが仲が良さそうに話しているのを見て3人組は少し動揺したが持ち直したようだ。


「あ~。ギルドとしてはケンカすることは止めはしない。ただし殺したり、酷いケガはペナルティがあるからな」

「おっさん、わかってんじゃねーか」

「「あははははっ」」


連中は戦う前から勝ったつもりでいるようだ。ありがたい、心置きなくボコボコにしよう。


「ところでアンタらは僕が気に入らなくてボコボコにしたいんだよな?」

「ははっ、当たり前だろ」

「なんでポッと出のガキがそんなに早く上がれんだよぉ?」

「そこにいるおっさんにケツでも奉仕してんじゃねーの。ぎゃはははっ」

「なるほど。じゃあ返り討ちにしてやるからまとめてかかってこい」


とりあえず煽って、対複数人の練習台になってもらおう。


「おいおい、ティム。無理すんなよ」

「舐めたガキだ。後悔すんなよ」

「ひん剥いて土下座させてやらぁ」

「ちっ。模擬戦のルールはお互いに壁際に立った状態から戦闘開始だからなっ」


リックは焦ってたが、3人組は狙い通りに挑発に乗ってくれた。僕は内心笑いながらどうやって倒そうか作戦を組み立てる。


訓練場には砂が敷き詰められている。

だが今回は石蹴りもこの砂を使った魔法も使う気はない。手加減した上でこいつらをボコってやる。


戦闘開始の合図はなかった。

僕が見えるように壁に手を触れたら連中は動き出す。3人が僕を壁に追い詰めるように距離を詰めようと迫る。


そこへカウンター。

正面にいる男にを飛ばす。僕のメイン武器、紐分銅だ。分銅は風魔法で飛ばし回収は紐が付いているから必要があれば引き戻せばよい。


分銅は予備動作なく、直線に飛ばされる。正面にいる相手ならば余計に見切るのは難しいだろう。

それを顎に一撃。手加減をしているからせいぜいがヒビが入る程度の強さ。しかし戦闘不能だ。


正面、つまり真ん中にいる男が倒れれば当然両脇の2人は大きく動揺する。

僕はショートソードを抜いて、剣の側面で右の男の側頭部を強打。転倒させる。


次は左。雑に剣を振りかぶりながら距離を詰めてきた。

僕の脳内に『ミラー』映像が見えている。体の近くなら視界に入ってなくても見える魔法だ。

僕はノールックでショートソードを男の腕に刺した。


「ぐあああああっ」


どうやら終わったようだ。全員が傷みに悶絶して起き上がってくる気配はない。

リックは僕の勝ちを宣言する。


「お前、前はそんな分銅なんて用意してなかっただろ?」

「手の内を隠すのは冒険者の基本って先生に教わったもので」

「ああ、オレか」


本来は複数の分銅に石蹴りや石飛ばしを混ぜ込んで、僕が動き回りながら相手を殲滅するスタイルだ。

そのことを知らないリックは1つ分銅が増えただけで僕の評価を大きく上げているのが笑えた。


ただ課題もある。

連中は僕と同じように皮鎧をしていた。今回みたいに大きな怪我なく、かつ非殺を前提にするならば狙いが限られてくる。

それに相手が僕の想定を上回る可能性も大いにある。僕が死なないためにもっと選択肢を絞り、容赦なく相手を無力化せねば。


普段から動物を狩り、解体、そして今回の荒事。

僕に平和な前世の記憶があると思えないほど物騒な考え方になったものだと思う。


この世界は噂が回るのは早いらしい。

ソロの僕に絡んで実験台になってくれるのは街のチンピラだけになった。

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