第8話





「小僧、今から戦え」


――10分後


「ワシじゃどうあがいても勝てん。お前、性格がひん曲がりすぎじゃ」

「ええ……」


順を追ってなにがあったのかを整理しよう。

ドワーフは僕に周辺の調査をさせたかったらしい。

しかし『とはいえそのままジャングルへ行かせて死んでしまったでは夢見が悪い。実力を見てやる。小僧、今から戦え』ということを言われた。


この提案は僕にとってメリットがあった。僕が村でできなかったことの1つが対戦相手がおらず、自分の実力が測れなかったことだ。

ありがたいと思ったのだけど、僕からもドワーフを試すことにした。僕の魔法をいくつか見せてどこまで本気でやっていいのか確認するためだ。


『ちょっと確認なんだけどいいか?』

『なんじゃ?』


僕は近くの木を指さして足元の石ころを蹴る。バチッと破裂するように石ころは木の幹の真ん中に当たり、粉々になる。


『な、なんじゃあっ!?』

『…………』


ただの風魔法だ。

石を蹴った威力に加えて空気を押して加速させる。ポイントは空気の流れを筒状にして、軌道修正をしながら的にぶつける点だ。

威力はライフルの銃弾ほどはある。


どうやら僕はかなり強いらしい。小手調べで使った魔法の威力が強くてドワーフがビビってしまった。


「もし模擬戦でさっきのを使うなと言われたらどうするんじゃ?」

「とりあえず開始と同時に空に逃げて、上から攻撃を浴びせるよ」

「ワシじゃどうあがいても勝てん。お前、性格がひん曲がりすぎじゃ」

「ええ……」


こんな感じだ。


「ところで周辺の調査ってここに入植するつもりなの?」


僕はドワーフを睨んであえてキツイ口調で言った。原住民に入植の手助けをしろだなんてナメてるのか?


「いやいやいや。今回は安全確保じゃ。最終的には川を見つけてその辺りに入植するかどうか決めるらしい」

「この辺りのジャングルを開いてもいいことなんて何もないからね、ホントに」


この周辺の人口は多くて2000人。それ以上はなかなか増えない。万を超える人の生活を支えるのは不可能だ。

何故ならこの周辺には川がない。雨がしょっちゅう降るので、雨水を溜めたり、水をため込む植物から魔法で水を採ったりでなんとかこの人数まで増えることができた。


多分冒険者がこの秘境を発見し、拠点を作ったのはいいが目立った戦略物資は見つけれていないのだろう。ギルドにこのドワーフ1人ということは調査を先延ばしにしているということだ。


話を聞き出すとここは最果ての森という危険地帯の奥にあるらしい。一方で僕がいるここら一帯は危険生物がほとんどおらず、原住民も平和に生活をしている。だから拠点を作ることを決めたらしい。


ところでどのような手段でここに建物を建てたのだろう?

そこは教えてくれなかった。


僕は周辺の調査を引き受けることにした。もし近くに川を見つけたら、流れを変えて遠くへ移してしまおうと考えている。





「ってあんたも調査に行くのかよ」

「周辺の安全は確保できたんだろ? ならワシがギルドを留守にしても問題なかろう」


街の周囲2㎞ほどの安全調査と地図の作成、目測だが街からの相対位置と等高線を含んだ地図を作った。

それを見たドワーフは目を見開いて1時間はそれを見つめ、僕の調査と同じくらいの時間を掛けて地図を持って歩き回った。


やってしまったのかもしれない。

精度の高い地図は機密情報に属するものだ。僕にはそれを作る才能があると思われたのかもしれない。そもそも街へ来てからはしゃぎすぎた。

街の雑用ではあまり自重せず魔法を使ったし、ドワーフをビビらせた。文字を教わった時に天才と言われたし、そして今回のことだ。

行き過ぎた有能さはろくなことにならない。バカな自分を殴り飛ばしたい。


僕の運命を握るのはとなりにいるこのドワーフだ。こいつが僕をどう売るかで僕の今後が決まってしまう。

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