第7話
初めてウリュウの街に着いて最大のピンチが訪れたのかもしれない。
通貨文化がない。
村ではお金が存在しなかった。物々交換しか交易の方法がない。
中世的な建物はギルドなど外部の持ち物。原住民は僕の村と同じように物々交換しかしないのだ。僕が仕事でお金を稼いでも使う先がない。
生活基盤がない状態で自給自足をしなければならない。
「困ったな」
「気の毒だと思うが見習いを卒業するE級になるまでワシから助けられることはねえからな」
「ん?」
ドワーフの含みのある言い方が気になった。
「どういうことだ?」
「ワシからは依頼をこなせとしか言えねえな。雑用ならたんまりとあるんじゃ。とにかくギルド評価を上げろ」
ところで他の職員を見かけない。
建物の中は何部屋かありそうなので不自然だ。そう思い聞いてみると、ここは出張所でドワーフしかいないそうだ。
唯一の職員が昼間から酒を飲むなと言ったが本人は知らんとぶった切った。
更に驚くのが冒険者は僕しかいないそうだ。僕のように冒険者になろうとする人間はいるけれど、諦めて自分の村に帰ったらしい。
このドワーフは仕事もかなり適当だ。依頼表なんてものはなく、あったのは依頼を箇条書きにしたメモ書きだけ。
ドワーフ自身も依頼をこなすことはあるけど、それは報酬で酒が貰えるときだけだそうだ。普段食べる物は自分で狩りに行くらしい。
「こんにちはー、ギルドの依頼で来たんだけどー」
「おー。お手伝いさんかー?」
僕は早速仕事をすることにした。依頼はドワーフがやりたがらない手伝いばかりが残っているらしい。
今日のところはあいさつ回り。依頼が出てるのは急ぎじゃないけどそのうちやった方が良い類のもの。今はコミニュケーションを取りつつ、生活の手伝いをするに留める。
まずは情報が欲しかった。なにしろドワーフがだらしないのだ。さらに人柄を見るためにE級に上がるには最低でも半年必要と言う。
なら他の街に行った方がいいのではと思ってしまう。
「この辺りにここのような街なんて聞いたことねえぞ」
しかしアテは外れてしまう。さらにはドワーフがどこから来たかさえ知らないそうだ。
僕が効いて回った限りではこの辺りはジャングルに囲まれた陸の孤島ということになる。
どうやらドワーフの言う通りにランクを上げるしか道はない。
僕があいさつ回りをしたのには他にも理由がある。住居を作るためだ。
材木を分けてもらいさえすれば、ロープは自分で用意してある。魔法を使えばしばらくの間に寝起きするための小屋を作ることは難しくない。
余所者の僕を受け入れてくれるお礼に排泄物の処理をしておいた、反応は上々だった。
「お前、すげーな」
「どうも」
すごいと言いつつも、ドワーフはしかめっ面に見える。それとやはり酒臭い。
依頼人と依頼内容を精査すると僕一人がやった方が早いものばかりだった。依頼人は人手を期待して、問題の解決は自分が主体に考えていたようだ。
しかし僕は村で行う、あらゆることに参加し覚えてきた。魔法を自重しなければ大抵のことは1人でできる。
僕があいさつ代わりにやってしまった排泄物の処理も依頼の中に入っていた。
草刈り、開墾や石畳の整備、延長、建物の建築、解体など中長期的な仕事を次々と片付けた。
街1つ分の溜まっていた仕事は3か月近くで片付いた。魔法様様だ。
「ほらよ。報酬じゃ」
「全部で……銀貨3枚銅貨34枚鉄貨56枚確かに」
「計算はできるんかよ。しかも早え……」
銀貨1枚もあれば大陸の都市で1か月生活ができるらしい。食事で言えば銅貨1枚で1食なら十分満足に食べれるそうだ。
貨幣は100枚で1つ上の貨幣1枚の価値があり、金貨や大金貨もあるそうだ。
ここではお金が使えないから報酬を受け取るのはこの街の雑用の依頼が片付いた今となった。
報酬の流れは依頼者からドワーフへ酒、ドワーフから僕へお金という形だ。
「それであんたに頼みたいことがあるんだけど」
「あん?」
僕はお金を払ってドワーフに文字を教えてもらうことにした。
ドワーフはかなりめんどくさそうな顔をしたが僕がある程度単語を知っていることに驚いていた。2時間ほどのレクチャーを魔法で記録しながら、一通りの文章は読めるようになった。
「これが天才ってやつか……」
ドワーフはかなり驚いていたが僕からすればそこまで難しいことはやっていない。日頃の復習と見えないカンニングペーパーを使っているだけだ。
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