第4話



「うーうー」

「あーっ! ハーちゃんが取ったぁー!」

「…………」


なんで僕がこんな目に……。

一言でこの状況を説明するならば幼児という動物の檻の中に放り込まれた。


僕が2歳に近づいたとある日、母と近所の同じくらいの子供を持つ母たちは持ち回りで子供の世話をするようにしたようだ。

そしたら不思議なことに子供たちは大人しい。実際は僕がベビーシッターをしていただけのこと。その代償として長時間のあまりの重労働にぐったりとしてしまった。

酷いときは5人の世話だ。それが続くものだから、僕は泣き叫んだ。恥なんてぶん投げて泣きまくった。結果として歳の近い2人が一緒にいることで落ち着いた。


「ねーティムーアレやってー」


一緒の部屋にいる幼女メイにはいつも魔法をせがまれる。僕はぬいぐるみを風魔法で操り、ダンスをさせた。


「わぁーすごーい」

「おーおー」


魔法をリクエストしたメイと一緒におもちゃで遊んでいたハーウェイも僕の魔法に反応した。ハーウェイはまだしゃべれない。男の子のほうがしゃべり始めが遅いらしい。

上手くしゃべりなれない演技をしているが、それでも演技が甘っかったらしく大人たちは僕を褒めていた。ボロがでないよう口数が少ない子供を演じなくては。



「ティムは魔法が使えるんだってね。見せてくれない?」

「まほー?」


とぼけた顔をしてみるが、どうやらバレたようだ。

最初は幼馴染の相手をするのが煩わしくて使った魔法だが、頻繁に使えば大人に見つかるのは必然だった。

しかし褒められはするものの、おもちゃ1つを動かす程度なら問題はないようだ。


せっかくバレたのだから、2人に魔法を教えてみることにした。2人が魔法を使えるようになったら、僕が魔法を使っても目立たなくなる狙いだ。

魔力の気配を掴むのに集中力が必要だ。

メイはすぐに飽き、ハーウェイにはそもそも言葉を覚えるのが先だ。気長にやるとしよう。





4歳になった。相変わらず村は平和だ。

幼馴染のメイとハーウェイと僕はいつもセットだ。親同士が仲良くなって、2人が僕にべったりなので安心らしい。


行動範囲が広くなった。家の中だけじゃなく、村の中なら動き回れるようになった。村は27の建物があるだけの小ささだ。

村の大人たちは僕たちくらいの歳の子供が外に出ようとすると必ず声を掛ける。僕が止めなくても大丈夫なわけだ。


僕は相変わらず魔法の練習をしている。

最も大きな変化はメイとハーウェイが魔法を使えるようになったことだ。僕が先生役だ。


「ティム、ぼく上手?」


ハーウェイは僕の後を付いて回る。自然と自分のことをぼくと呼ぶようになった。

彼が使っているのは水を出す魔法。宙に浮かせて、好きな形を造ることにハマっている。


「上手になったね。じゃあこういうのはどう?」


僕は『幻影魔法』を使いハーウェイに次の課題を与える。この『幻影魔法』は相手に僕の『脳内魔法』で見えているものを共有するものだ。もちろん相手にだけ幻影を見せることも可能だ。

ここ2年で相手がいることによって試すことができる魔法も開発することができた。


「あたしのほうも見てー」


メイは目の前の植物を自慢げに見せてきた。植物を成長させる魔法、メイはハーウェイよりも魔法のセンスがある。

幸運なことにお互いに魔法でやりたいことが違うため、互いを比べ合うことはしない。できることを自慢しあい、褒め合う良い関係だ。


最初彼女が植物を成長させるのを見て驚いた。僕がなかなか上手くできなかった魔法だからだ。

僕が前世の科学の知識を元に考える理論派ならばメイは完全な感覚派だ。過程にほとんど目を向けず、結果をイメージすることで魔法を行使している。

僕の魔法は無駄を削るのに特化している。だがメイの魔法は理を超えた奇跡を起こせるのかもしれない。

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