第2話





「そっちデカいのが行ったぞ」

「「「わぁああああ」」」


村の中でイタチのような動物がネズミのようなものを追いかけている。

前世の発展した社会でもネズミ駆除業者や薬品が活躍していた。このような原始的な生活ではなおさらネズミ駆除は必須だ。

なぜイタチやネズミのようなという表現かといえば、少なくとも小動物には触覚や複眼なんてものはなかったから。ちなみに名前はタチチとネミミ。

このような差異は今後も出てくることだろう。こういうものだと割り切ろう。


ネミミ駆除は村の大イベント。

すばしっこく逃げるネミミを複数のタチチが巣に入ったり囲ったりして追い詰める。タチチが首に噛みついたら人間がそれを取り上げ、次の狩りをさせるという流れ。

それを見て子供も大人も大盛り上がりというわけだ。


このタチチ使いたちは他の村の人たち。この周辺にはいくつかの村があり、そこから来てもらっている。

これがなかなか、商売上手だ。

タチチ使いたちはなかなかユーモアがあり、明るくタチチの動きを説明をする。そのおかげもあり、ネミミ駆除がまるで興行だ。さらに頑張ったタチチたちへのエサやり、これを村の子供たちにやってもらうことで歓声はより大きくなった。


タチチ使いが去り、熱が落ち着きを見せ始めても、村人たちの多くは家に入らない。せっかくだからと交流の場にしようという流れだ。

そこで僕はとある事実を知ることになる。


どうやら僕は1歳になったらしい。両親と村の人との会話は全ては聞き取れなかったけど『1歳』という言葉ははっきりと聞こえた。ここには「誕生日おめでとう」とお祝いする習慣はないようだ。無理もない、子供が病気やケガで死ぬことも多いからだろう。

代わりに7歳と成人の14歳の子供を村全体を上げて祝う習慣があると後で知ることになる。


「あうー」

「ティムはお利口さんだなぁ」


こうして両親と共に村の人たちに挨拶するのは初めてだ。

僕の精神は大人だ。赤ちゃんの振りをするのは限界があり、いきなりなくことなんて無理だ。ただし肉体が赤ちゃんなせいか、ふとした時に泣いてしまうことがある。しかもそれはなかなかブレーキが利かない。


今まではあまり泣かない赤ちゃんとしてやってきたが、これからはそうはいかない。

もし仮にいきなり流暢に喋り始めればとんでもないことになるだろう。下手をすれば悪魔憑きとして吊るし上げられてしまう。

しゃべりの上達はかなり遅いペースを心掛けよう。1歳半に一語ずつ話すのが目標だ。そこからは喋りの上達が多少早くてもなんとかなると思う。


「ティム、今日も大人しくしてられるかな?」

「あいー」


僕はあまり手の掛からない子供だ。

ゆえに母は僕を部屋に放置する時間が増えた。僕は魔法の練習ができる。利害は一致している。

母は忙しいのだ。むしろ自給自足の原始的な生活が楽な訳はないのだ。やることは無限にある。


だがこの世界には魔法がある。しかし人々は魔法をあまり有効に使えていないということに僕は気が付いた。

火を起こす、風を起こして掃除をする。それ以外の使い方を見たことがない。


僕の目標に村の生活を魔法によって豊かにすることが加えられた。

炊事洗濯、保存食作り、家の補修、害虫駆除など魔法でできそうなことはどんどん見つかる。

実際にやってみないと問題点は見つからないが、少なくとも半分くらいは楽になる作業はあるだろう。


それとは別に僕が強く求めるのは医療に関する魔法だ。

病気が怖いから魔法の練習よりも身の回りを清潔にすることに優先している。でもいくら気を付けていても、病気になるかもしれないし、毒ヘビや毒虫、初めての食べ物で毒に侵されるかもしれない。

もちろん怪我も怖い。

前世では多分、医療の専門家ではなかったのだと思う。しかし今ではなぜ詳しく知っておかなかったのだと思ってしまう。

そのくらい身近に死の危険を感じているということだ。


今の僕にできることは魔法の操作性を上げることだ。

高度な魔法にはきっと高い操作性を必要とされるはずだ。勉学と同じで下地を作っておくことは無駄にならないだろう。


現に魔法の操作性は風の魔法に限定したものではなかった。風の魔法ばかりを練習していた僕だが、水の魔法や火の魔法でも細かい操作ができるのか試してみた。そうしたらちょっと練習で風の魔法と同じくイメージ通りに形を維持することができた。




「ただいま」

「あなた、おかえりなさい」


父は日に何度か家に帰ってくるが狩りの時は1日中家を空ける。今日はバヌーという動物を村のみんなで狩ったそうだ。

父は肉を持ち帰るときは嬉しそうにしているが、当然僕はまだ肉を食べさせてもらえない。今晩の夕食も離乳食の粥だ。ちくしょう。


バヌーという動物を僕は見たことがないが以前見たブブは豚のような動物。例に漏れず前世の記憶にない特徴を持っていた。それはおそらくこの世界には魔力が存在することが関係する。

もしかしたら人間の器官にも前世とは違う特徴があるのかもしれない。いまのところ見た目に大きな違いがないが魔法が使えるのだ、そのための内臓があるのかもしれない。


とまあ、僕は全く赤ちゃんらしくないことを日々考えながら新しい人生を生きている。

しかし僕にも悩みがある。それもかなり深刻な悩みだ。










僕はこの人生を楽しめないかもしれない。

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