効率化ばかり考えてないで友達を作りなさい――僕はファンタジー世界を楽しめないかもしれない

みそカツぱん

第1話




ここは人の命が軽すぎる。


近所の子供が2人立て続けに死んだ。

この村は衛生意識が低く、文明が低い。鳥小屋のような匂いがする場所だ。そりゃあ病気にもなるわ。

そんなことに気が付いたのは僕が前世の知識を思い出したから。


僕の今の年齢はおそらく生後1年いかないくらいだ。

手足の成長具合から、頑張ればもう少しで立つことができるだろう。


両親が話す言葉は前世で使っていた言語とは違ったものだ。会話文はニュアンスで何パターンか覚えることはできたが、言葉として発声できない口元がもどかしい。

あうあう言っている僕を見て、両親は成長が早いと喜んでいる。あなたたちは会話文だけでなくちゃんとした構文を使ってくれ、ちゃんと文法を理解したい。


知識としての前世の記憶はまるで他人の体験のようにしか覚えていない。おかげで衛生感覚の違いで発狂せずに済んでいる。

それに僕は死んだときのことを覚えていない。下手なトラウマを抱えていないことはラッキーなのだろう。


さて、色々話したが自己紹介をしよう。

僕の名前はティム。両親の顔からそこそこのイケメンに成長すると期待したい。この村の人は褐色でよく肌が焼けている。地肌が元々色素が濃い感じだ。

この辺りは多分、亜熱帯地域だ。前世の記憶では赤道に近くなるほど季節の差が無くなり、生き物にとっては育ちやすい環境となる。

母に抱かれて村を見た感じだと、災害や外敵で被害を受けた様子はない。岩塩が採れる場所も近くにあるようなので暮らしは安定しているようだ。


しかし文明の低さには呆れかえる。

初歩的な医学の知識が欠けているので怪我をしても傷口を洗わないし、熱が出ても濡れた布で冷やすことをしない。

僕はいつ病気に罹らないかヒヤヒヤしながら過ごしている。


そんな僕の習慣は周囲の観察とだ。

そう、この世界には魔法が存在する。前世では多くの人々が憧れた魔法。その存在を知ったとき赤ちゃんながらに感動したものだ。


魔法はイメージだ。

僕は前世の知識があるから、使う魔法を選ぶことにした。例えば火の魔法なんか使って火事になったら危険だ。僕は逃げれないから死んでしまう。

最初に使ってみたのは水の魔法。空気中の水蒸気を集めるイメージをしたら手のひらに水が集まった。

色々な魔法を練習した結果、風の魔法の消費が少ないことが分かった。水蒸気を集める水の魔法と空気を直接動かす風の魔法。考えてみたらどちらの方が燃費がいいのかはすぐに分かった。魔法において、科学的な知識はかなり大事なようだ。


魔法の練習は人前でやらないようにしている。それと見つかっても誤魔化せる風の魔法を主に使っている。だから今まで誰にも気づかれていない。多分両親や周りの人間は魔法を使う気配を読み取ることはできないのだろう。

行動で僕が他の子供と違うことがバレないようにしないといけない。下手をすればこの村で悪魔憑きの子供として処刑されてしまうかもしれない。突出しすぎているのもまた異端なのだ。


風の魔法は最初、そよ風を起こす程度のものだった。それを段々と自分の意思で動かせるようになり、その日のうちに部屋に溜まる塵を巻き上げ、つむじ風にすることができた。

バレないように、僕の魔法の訓練は非常に地味にレベルを上げることが求められた。風の刃は風を薄く鋭くするイメージで簡単に部屋の壁に傷を付けることができた。この方向では訓練を続けるのはダメだと思った。

音を発するのもダメ。したがって出力を抑えて操作性を上げることを求めた。寝床には手縫いのぬいぐるみがあったので浮かせることにした。


全然ダメ。

失敗の理由は風の出力が安定しないから。瞬間的に空気を押すことはできても扇風機のように安定して風を送ることができていない。それに点で風を送っているのもダメな点だ。最低3点から同じ強さの風を送ることを目指したい。

この課題は浮遊でなく、まるで下に透明の台で支えられているような状態を最終目標にした。


いくら出力が低いといっても長時間魔法を使うと疲れる。それに操作性と同時性を加えるとさらに消耗する。

僕は赤ちゃんでこの村では体調を崩すと命に関わる。無理はしないが程よいところで、いつも疲れて眠さが来る。僕はそういう時は素直に目をつぶることにしている。

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