第79話 ダミアン
儂、ダミアンは徒労感を感じながら口を開く。
「ジャック、キミは興味ないかもしれないが、ランクが上がれば特典もある。冒険者ギルドにも融通が利くし、依頼のレベルも上がって高収入にもなる。上げておいて損はないぞ?」
「ああ」
興味なさそうに頷く骸骨の仮面。
冒険者のランクはその冒険者の能力を適正に判断するのに使われる。冒険者たちの管理という面で楽なのだ。クエストを割り振る時にも参考にしたりする。
だから、ランクに応じて冒険者を優遇したり、冒険者たちにはランクを上げたくなるようにしてきたのだが……。ジャックのようにランクを上げることに関心がない者を取り零してしまう問題点がある。
その中にジャックのような実力者がいるのは非常にもったいない。
優秀な冒険者は喉から手が出るほど欲しいのが本音だ。
しかも、ジャックはなにを考えているのか、普通は誰もやりたがらない変異個体の討伐に興味があるらしい。この変わり者はぜひとも冒険者ギルドで囲いたいものだ。
変異個体のせいで、冒険者に被害が出たり、階層そのものを封鎖せざるをえないこともある。
これは深刻な問題だ。
その際は高レベルの冒険者に依頼を出すのだが、高レベル冒険者を動かすには、多額の報酬を払わなくてはいけない。高レベル冒険者への指名依頼となると、ざっとジャックに払う予定の三倍ほどの金額になってしまうのだ。
必要経費とはいえ、コスト削減できるところはしていきたい。
おっと、今はジャックのランクの話だったな。
「ジャック、キミはダンジョンを何階層までクリアした?」
「二十階層までだ」
「ふむ。二十階層をクリアしたなら、ブラックウッド級になれるな。すぐに用意させよう」
ソロで変異個体を撃破する実力があるのならもっと上の階級でもいい。複数の証言もあるので確度も高い。だが、冒険者ギルドにはダンジョンのクリア階層に応じた飛び級の制度しか無いからな。残念だが、今はブラックウッドまでしか贈ることができない。
「ジャック、繰り返しになるが、変異個体を撃破したら必ず冒険者ギルドに報告してくれ。冒険者ギルドはキミの献身に応える用意があると言っておこう」
「わかった」
「話は以上だ。わざわざ呼び出してすまなかったね」
「いや……」
それから、受付嬢に連れられて部屋を後にするジャック。
しばらくすると、先ほどの受付嬢、本当は副支部長であるエマが帰ってきた。
「エマ、ご苦労だった」
「いえいえ、最初は断られそうだったんですけど、無理やり連れてきて正解でしたね」
エマが困ったような表情で頬に手を当てていた。
「まさか、ギルドのランクにあそこまで興味がない者がいるとは思わなかった。複数の冒険者たちの報告が無ければ、信じられなかったに違いない。まさか、変異個体をソロで撃破して回る者がいるなど、儂の想定外のことだ」
変異個体はどれも強力なモンスターだ。実力者なら問題なく倒せるが、それはあくまでパーティでの話。ソロで変異個体を撃破するなど聞いたこともない。どんなバケモノだ?
それ故、『白の死神』など眉唾の存在だと思ったのだが……。まさか実在していたとはな……。
「エマ、キミには噂の『白の死神』はどう映った?」
「そうですねー。思ったよりもかわいらしい格好をしていました」
「それはそうだが……。儂が聞きたいのは実力の方だ。【観察眼】の意見を教えてくれ」
エマは、【観察眼】というギフトを持っている。人の嘘を見抜いたり、冒険者の実力を計るのが得意だ。エマが冒険者に接する機会が多い受付嬢をしているのはそれが理由である。
エマが連れてきたということは、あの少年が噂の『白の死神』で間違いない。儂はエマの【観察眼】に全幅の信頼を寄せているのだ。
「そうですねー……」
珍しくエマが考え込むような表情をみせた。
「彼の言葉に嘘はありませんでした。彼が『白の死神』で間違いありません。ですが……」
「どうした?」
「実力が釣り合いません。たしかにそれなりの実力はありますけど、一人で変異個体を倒せるのかというと……。ちょっと自信が持てませんね」
「ふむ……」
だが、複数の冒険者からソロで変異個体を撃破したという報告がなされている。
ジャックがエマの【観察眼】をも欺くほどの擬態をしているのか、それとも……。
「よほど強力なギフトの持ち主か……」
「そうかもしれませんねー」
「欲しいな……」
ジャックほど優秀な冒険者はすぐにでも囲いたいほどだ。ぜひともジャックにはこの王都で冒険者として活躍してもらいたい。
もちろん、王都にも優秀な冒険者はいる。だが、皆一癖も二癖もあるような奴らばかりで、ギルドのクエストなどロクに受けてくれないのだ。
それに比べたら、ジャックは金で素直に動いてくれる分、扱いやすい。
「これからもジャックには特別目をかけてやってくれ。他所のギルドに引き抜きされないようにな」
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