第77話 冒険者ギルド
そんなわけで、オレたち『バル・マスケ』は、主に週末に秘密でダンジョンに潜ることを繰り返していた。
とはいっても、エグランティーヌはこの国のお姫様でいろいろと公務なりお茶会で忙しいから、そこまで頻繁に潜っているわけじゃないけどね。だいたい月に一回程度かな。
でも、一緒にダンジョンに潜って、だんだん強くなる敵を相手にお互いの命を預け合う関係だからか、最初は少しギクシャクしていたパーティも回を増すごとにスムーズに連携できていた。それだけ味方の考えを読んで、合わせられるようになってきたということだろう。
それに、もともとクラスメイトで顔見知りではあったけど、ダンジョンの攻略を通して、一段と仲良くなれた気がする。
やっぱりダンジョンはすごいな。オレたちにいろいろなことを教えてくれる。
ダンジョンは成長にぴったりだ!
そんなオレたち『バル・マスケ』だが、その中でも特に成長著しいのがアリスとコレットだ。
アリスは自分の創造した人工精霊のクーとの息も合ってきて、魔法使いとして高い成長を見せている。
そして、それだけではなく、戦闘における錬金術師としても腕を上げている。
錬金術師は、自分の創造したアイテムを使って戦闘を優位にする職だ。状況に応じて、適切なタイミングでアイテムを使うことが求められる。
この世界では、フレンドリーファイアが普通にある。どんな有用なアイテムでも、使うタイミングを間違えれば大惨事だ。
その中にあって、アリスは適切にアイテムを使っていると思う。アリスのアイテムで救われている場面も多い。
オレたちの中には回復魔法を使えるのがエグランティーヌしかいないからね。サブヒーラーとしても大活躍だ。
そして、なんといってもコレット。彼女の伸び率がエグい。おそらく、『バル・マスケ』のダンジョン攻略の中で、一番伸びたのがコレットだろう。
さすが、すべての成長にボーナスが付く【勇者】のギフトを持つ者だ。
コレットの操る片手剣と片手斧の成長ももちろんだが、初期のコレットは自己中なイノシシのような奴だったが、最近は戦術や戦略まで本能で理解しはじめている気がする。
コレットは片手斧のスキルでモンスターの防御力を下げることができる。攻撃の起点になりやすいスキルだ。それをいつで使うか、どのモンスターに使うか。コレットなりに考えているのだろう。
今のコレットなら、新人戦の時のような無様はさらさないだろう。
オレもうかうかしていられないな。
というのも、オレは他のメンバーと違ってギフトによる成長のボーナスが無いからだ。オレが新人戦で優勝できたのは、相手よりも肉体レベルが上だったという点が大きい。
純粋な技量という点なら、『バル・マスケ』のメンバーの中で一番劣っている。
メンバーの肉体レベルも上がっているし、このままでは置き去りにされてしまう。
そんな危機感から、オレは暇さえあればソロでダンジョンに潜るようにしていた。
「ふむ……」
オレは冒険者ギルドのクエストボードの前に立つ。もちろん、普通のクエストボードではではなく、ダンジョンのレアポップモンスターの位置情報の載っている方だ。こっちの世界では変異個体と呼ばれているみたいだけどね。
普通なら、ダンジョンに潜る冒険者たちへ注意を促す内容なのだが、オレにとっては狩るべきレアポップモンスターの出現位置をわざわざ教えてくれるとびきり親切な情報なのだ。
前回見た時から情報が更新されており、討伐されたレアポップモンスターは姿を消し、新たに見つかったレアポップモンスターの情報もあった。
「なるほどな……」
レアポップモンスターの出現位置情報を頭に叩き込み、これから討伐に向かおうと振り返ると、冒険者たちから注目を集めていることに気が付いた。
なんだ?
まぁいいか。それよりも早くダンジョンに行こう。
そう思って一歩足を踏み出すと、横から声をかけられた。
「あの……」
「ん?」
横を見れば、冒険者ギルドの受付嬢が困った顔をして立っていた。
「あの、少しお時間はありますか? 支部長がお話を伺いたいそうです」
「えー?」
ギルドの支部長ってギルドの一番偉い人だよな?
なんで支部長が?
そんな人がオレに何の用だ?
まぁ、オレは支部長とやらに用なんてないし、無視でいいだろう。
「すまないが、早くダンジョンに行きたいんだ」
「少しの間だけでいいんです。少しだけ、本当に少しだけですから」
「えー……」
なんでこんなに受付嬢さん必死なの?
「私を助けると思って、少しだけお願いします!」
「まぁ、そこまで言うなら……」
「ありがとうございます! ありがとうございます! さあ、こちらになります」
「ああ……」
あまりにも必死な受付嬢さんに負けて、オレはギルドの支部長とやらに会うことになってしまった。
受付嬢さんについていくと、冒険者ギルドのカウンターの向こう側に案内される。
それからギルド職員が忙しく働いているのを尻目に階段を上っていく。
どうして偉い人って高い階層が好きなんだろうね?
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