第76話 レーザーとバル・マスケ
「じゃあ、行こうか」
ようやく巡ってきたダンジョン第二十階層のボス戦が今始まる。
「作戦通りに行こう」
頷くパーティメンバーたちを確認して、オレは大きな両開きの扉を開いていく。
大きな白い部屋の中、まるで隊列を組むように横に並んでいる二十体のオークの姿が目に飛び込んできた。
「いくぞ!」
オレは即座に収納空間を前面上方に展開する。出すのは、今まで授業中に溜め込んできた太陽光だ。太陽光を一気に照射し、まるでフラッシュグレネードのようにオークたちの視界を焼くつもりである。
その後は、エヴプラクシアとアリス、クーによる遠距離攻撃で数を減らし、最後は前衛陣が近接戦闘をする手はずだ。
まずは目潰しを成功させて、オークの動きを止めないとな。
「照射!」
チュドーンッ!!!
「……え?」
しかし、そこにはまるで想像もしていなかった光景が広がっていた。
まるでカメラのフラッシュのように辺りを照らすと思っていた太陽光だったのだが、なんの間違いなのか、野太いレーザーのようにオークたちを一気に蒸発させ、消滅させてしまった。
残ったのは部屋の中央に置かれた討伐報酬の宝箱だけだ。
「えぇー……?」
オレは間抜けな声を出すことしかできなかった。
太陽光を圧縮して照射すると、こんなに危険なのか!?
「ちょっとジル! モンスターがいないじゃない!」
振り返ると、エヴプラクシアがオレを見上げて拳を突き上げていた。彼女はジャッジメントを放つためにとても苦いMPポーションを飲んで備えていたのだ。自分の仕事がなくなれば、いったいなんのために苦いMPポーションを我慢して飲んだのか。どうやら怒っているようだ。
「いや、えっと……。これはオレにも予想外で……。ごめんね?」
「もう! 本当に、もう!」
背丈の小さいエヴプラクシアが地団駄を踏むと、まるで小さい子どもが癇癪を起しているみたいでかわいらしい。
「まあまあ、シア。それにしても、すさまじい威力ですのね……」
「うん。新人戦の時に使われなくてよかったよ……」
エグランティーヌとコルネリウスが恐れを滲ませた声で呟いた。
「すっげー! あの数のオークを一撃かよ! ジル、マジですげーじゃん!」
「さすがです、ジル様!」
コレットとアリスがキラキラした瞳で褒めてくれる。なんだか照れちゃうな。
それにしてもすごい威力だったな。当初予定していたフラッシュのような使い方ではないけど、これはこれで使える。遠距離攻撃手段が指弾しかなかったから、これへこれでありがたいね。即戦術入りだ。
それに、たぶん威力を絞ればフラッシュのような使い方もできるだろう。これからはできるだけ日光も収納しよう。
いや、べつに日光にこだわる必要も無いよな。今までも試してきたつもりだけど、これからはいろんなものを収納していこう。今みたいに予想外に使える攻撃手段をが手に入るかもしれない。
「せっかくのボス戦なのに、機会を奪ってしまってすまなかった。今度からちゃんと実験してから使うよ」
「実験も無しにこの威力ですの!?」
「あなたどうかしてるわよ!?」
エグランティーヌとエヴプラクシアにひどく驚かれてしまった。そうだね。これからはちゃんと実験するので許してほしい。
「それよりも、そろそろ夕方だろうし、討伐報酬を回収したらダンジョンを出ようか」
「せっかくポーションを飲んだのに……」
エヴプラクシアがガクッと肩を落とした。
「それならオレの収納に魔法撃ってくれない?」
「え? ああ……。あなた、魔法を溜めれたわね……」
エヴプラクシアも魔法の練度が上がり、オレも魔法を補充できる。一石二鳥の策だと思ったのだが、彼女は疲れたような声で頷いた。
それから、エヴプラクシアの魔法を収納してから、オレたちはダンジョンを後にした。
「あれだけ魔法を撃っても壊れないなんて……」
エヴプラクシアは悔しがっていたが、そもそも壊れるようなものじゃないしね。仕方ないね。
「そうでした。今日のダンジョンが終わったら話し合おうと思っていたのですが、わたくしたちのパーティ名を決めませんか?」
「パーティ名を?」
そういえば決めていなかったな。
もしかしたら、そこにはエグランティーヌの今回のことだけで終わりにしてほしくないという願いもあるのかもしれない。
「いいんじゃないかな。今日だけで解散するのは寂しいし」
「いいね! やっぱかっちょいーのつけようぜ!」
コルネリウスもコレットも乗り気のようだ。
「アリスはどう思う?」
「わたくしも賛成です!」
「シアは?」
「いいんじゃないかしら」
みんな賛成らしい。
「となると、問題はどんな名前にするかだが……」
「じゃあ、仮面舞踏会って意味でバル・マスケなんてどうかな? ワシたちみんな仮面付けてるし」
このコルネリウスの一言で、オレたちのパーティ名は『バル・マスケ』に決まった。演劇好きのコルネリウスらしい名前だね。
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