第75話 並ぶ冒険者

 オレたちは破竹の勢いでダンジョンの第十九階層をクリアし、第二十階層へとやってきた。相変わらずの白い石造りの幅広な通路が続く。


 第二十階層を進んでいると、他の階層ではたまにしか見なかった冒険者の姿が多いことに気が付いた。なんでだろう?


「他の冒険者の方が多いですね」

「なにか理由があるのかしら?」

「呼び名とか気を付けないとね」


 エグランティーヌ、エヴプラクシアも気になっているようだ。コルネリウスの言う通り、呼び名とか気を付けた方がいいな。どんな些細なことからバレるかわからないし。


 迷路のようなダンジョンの通路を歩く。道を間違えたり、宝箱を見つけたり、モンスターと戦ったりしながら進んでいくと、やがて大きな両開きの扉が見えた。ボス部屋だ。


 しかし、ボス部屋の前には多数の冒険者の姿があった。どうやらボス部屋に入る順番を並んでいるようである。もちろんゲームではなかった光景だ。


 なにかあるのか?


「この先はボス部屋ですよね? なぜ皆さん並ばれているのでしょう?」

「わかりかねます。ここのボスって、大量のオークよね?」

「たしかそうだったと思うけど……」


 エグランティーヌ、エヴプラクシア、コルネリウスも不思議そうだ。


「ここのボスって楽に倒せるのか?」

「お兄さまのお話では、二十体のオークらしいので、むしろ倒すのはたいへんだと思うのですけど……」


 コレットに疑問にアリスが答えていた。


 アリスの言う通り、ここのボスは二十体のオークだ。倒せない相手ではないが、数が数だけに脅威だ。


 そういえば、オレールのダンジョンでは、ダンジョンボスの討伐代行なるものが流行っていたが、こいつらもその類なのか?


 しかし、いつまで経っても売り込みに来ない。


「もしかして……」


 もしや、こいつらの目的はボスの討伐報酬では?


 ダンジョンのボスだが、二十階層、四十階層、六十階層、八十階層、百階層と二十の倍数の階層のボスは、ちょっと強めに設定されている。そして、その分討伐報酬が豪華なのだ。


「ちょっと訊いてくるよ」


 オレはそう言ってパーティから離れ、近くにいた強面のおっさんの元にやってきた。


「ちょっと話、いいか?」

「なんだ? 攻略情報とかなら金取るぞ?」

「いや、違う話だ。ここは冒険者が多いが、なにか理由があるのか?」

「おめえ、ルーキーか? ちゃんと情報収集しねえと、すぐにおっ死んじまうぜ?」


 こいつ、意外にもやさしいな。やはり人は見かけによらない。


「俺たちは、ボスの討伐報酬が欲しくてこうして並んでるのさ。もう何回周回してるかわからねえほどだ。気が滅入っちまうが、この階層を周回するのが一番効率よく稼げるんだ」

「そうなのか?」


 稼ぐなら、それこそレアポップモンスターでも狩ればいいと思うんだが……。


「ああ、ここのボスは倒せば一通りの武器が出るからよ。パーティの強化にもいいし、当たりが出ればデカいんだ」


 なるほど。たしかに第二十階層のボス討伐報酬は、一通りの武器が出る。その武器たちはそこそこいいの性能だ。ダンジョンの浅い階層で使うのならば申し分ない。


「ちなみに、当たりって何だ?」


 そこまで高値で売れるアイテムは出ないと思ったのだが……。


「そんなことも知らねえのかよ。まぁ、特別に教えてやるよ。それは人工精霊の素体だ」

「そうなのか?」


 ゲームでは店売りしてもそんなに高値が付いたわけじゃなかったんだが……。


「知らねえのか? 人工精霊と言えば、錬金術師たちの夢らしくてよ。挑戦したい奴らがごまんといるのさ。そいつらに高値で売る」


 たしかカチェリーナもそんなこと言っていたな。人工精霊を造るのは錬金術師たちにとっての一つの到達点だとか。


 その素材の一つである人工精霊の素体の価格が高騰しているらしい。


 これはアリスにクーの存在を隠してもらった方がよさそうだ。


「なるほどな。情報感謝する」

「なあに、これぐらいなんでもねえさ」


 強面の男には情報料ということで銀貨一枚渡すと、似合わない笑顔を浮かべていた。


 オレはパーティの面々が待つ場所に戻ると、先ほどの男の話を伝える。


「人工精霊の素体が目的ですか……。たしかにクーは隠していた方がよさそうですね」

「お金儲けのためにダンジョンに潜っているのね」


 エグランティーヌが指先に止まっていたクーをアリスに返し、エヴプラクシアが不思議そうな顔で首をかしげる。


「平民にとっては稼げることの方が重要なんじゃないかな? オレたちみたいに純粋に強くなるためにダンジョンに潜っている連中は少数派だと思うよ」

「ワシたちは歳費を貰えるけど、平民にはそれがないからね。たいへんだ」


 まぁ、オレも歳費を止められたわけだが、アリスを不安にさせるのもあれなので誰にも話していない。新人戦の賭博でバカみたいに儲けさせてもらったからな。しばらくは大丈夫だ。


 それに、まだ換金していないけど、オレの収納にはレアポップモンスターのドロップアイテムもある。学園を卒業するまではいけるんじゃないかな?

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