第71話 アリスとコレットとダンジョンと

「せあ!」


 オレは鎧を着たオークの鳩尾にタスラムをぶち込む。


「PIGA!?」


 タスラムは攻撃力もさることながら、本当に凶悪なのはその追加攻撃にある。無属性の追加攻撃魔法の衝撃に仰け反るオーク。


 鎧で物理防御力を上げようと、魔法の前にはそんなものは意味はない。


「ソニックブロー!」


 風属性の魔法追加攻撃の効果がある『ソニックブロー』。その打撃とさらに追加魔法攻撃にもタスラムの効果は乗る。一発で四連撃もできるお得な技だ。


「だりゃ!」

「クー!」


 ボフンッと白い煙となって消えたオークを見届けて振り返ると、コレットがオークの鎧を砕き、クーがオークの首を魔法で刎ねているところだった。


「しゃっ!」


 コレットに鎧を砕かれたオークも白い煙となって消え、辺りには静けさが戻ってきた。


 だんだん道中のモンスターも強くなり、クー一人では対処できなくなってきたな。


 まぁ、みんなで倒せば楽に片付くが。


「おつかれさま」

「おう! おつかれさん」

「おつかれさまです」

「クー!」


 やっぱり味方の存在はありがたいな。ソロだとどうしてもモンスターを倒すまでに時間がかかるから。


 おかげで攻略がサクサク進む。


 そうして第十六階層もクリアし、そろそろ腹が減ってきた。お昼時だな。


「腹が減ったな。どうするんだ? いったん外に出るか?」

「いや、今日は昼飯を持ってきた」

「あん?」

「まさか、お兄さまのギフトのお力ですか?」

「そうだ」


 オレはモンスターが湧かない安全地帯まで来ると、収納空間から料理を出していく。


「まぁ、簡単な屋台料理が主だがな。水もあるぞ?」

「ジル、お前のギフトってなんでもありだな」

「さすがお兄さまです!」


 呆れた顔をしながら、コレットがオレから串焼きのソーセージを受け取った。


「あん? まだ温かいぞ?」

「オレのギフトの中に入れると、温かいものは温かいままだし、冷たいものは冷たいままだぞ?」

「そりゃすげーな! まぁ、魔法も入れられるんだから今さらか」

「ありがとうございます、お兄さま」


 食事を取ったその後もダンジョン攻略は順調サクサクに進み、オレたちは第十九階層まで攻略した。


 次は節目となる第二十階層だ。ボスのドロップアイテムにも期待したいところだな。


 ダンジョンを出ると、もう日は傾き、夕方になっていた。丸一日ダンジョンに潜っていたことになる。オレは静かな充足感を感じていた。


「あーったく、今日は一日中ダンジョンかよ。なんか休みらしい休みでもなかったな」

「不満か?」

「不満はねえけどよ。俺だって強くなりてえしな」

「わたくしも不満なんてありません。今日はクーも大活躍でしたしね」

「クー!」


 クーとアリスがハイタッチしている様子は、見ていてとても和む。アリスがちょこんと人差し指をクーに近づけると、クーがペチッとハイタッチするんだ。これ、無料で見ちゃっていいのか? お金払った方がいいんじゃないか?


 そんなバカなことを思いながら、オレたちは一度宿に戻って制服に着替え、学園へと帰還した。


「次はいつ行くんだ?」


 女子寮の前でコレットが訊いてくる。きっとコレットもダンジョン攻略が楽しくなったんだろう。オレも同じだからわかる。


「やる気だな。来週の休みなんてどうだ?」

「いいぜ!」

「わたくしも大丈夫です」

「じゃあ、決まりだな」


 また三人でダンジョンに潜れる。そのことがなんだか無性に嬉しかった。


 今までソロかアリスと二人でしか潜ったことなかったからな。これが仲間の増える感覚か。なんとも嬉しいものだな。


「やっと戻ってきた……」


 ホクホク顔で男子寮に戻ると、そこには二メートルを超える大柄な男が仁王立ちしていた。コルネリウスだ。


「どうしたんだ、コルネリウス? なにか用だったか?」

「うん。ワシじゃなくて姫様だけどね。明日、お話があるみたいだよ」

「そうか……」


 姫様ということは、相手はエグランティーヌだ。エグランティーヌがオレに話がある? なんだか嫌な予感しかしないぞ……。


「急に腹が痛くなりそうなんだが……」

「絶対に連れてこいと命令を受けているんだ。残念だけど諦めてくれ」

「はぁ……」


 逃げたいところだが、いつまでも逃げられるわけがないし、逃げたらコルネリウスに迷惑がかかる。覚悟を決めて行くしかないのか……。


「そういえば、今日は朝からいなかったみたいだけど、どこに行ってたの?」

「うーん……」


 オレは不思議そうな顔をしているコルネリウスを見上げた。


 当然だが、オレたちがダンジョンに潜っているのは秘密だ。未成年でダンジョンに潜ってるなんて知られたら、きっと冒険者証も取り上げられてしまうだろう。


 コルネリウスが信頼できないわけじゃないけど、バレた時のリスクがデカすぎる。コルネリウスには悪いが、ここは黙っておこう。


「アリスとコレットを連れて王都の観光に行ってたんだ」

「そうなんだ。言ってくれればワシが案内したのに」

「そうか? じゃあ、次回王都観光する時があったら頼むよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る