第70話 第十五階層ボス戦

 ダンジョンへの登録も済まし、オレたちはさっそく第一階層へとやってきた。


「クー!」


 今までアリスのバックの中にいたクーも出して、準備万端だ。


「とはいっても、ダンジョンの第一階層なんてザコばっかりだからな。次の階層に行くぞ。駆け足!」

「はい!」

「走るのかよ? めんどくせえな」


 元気よく返事を返してくれたアリスとは違い、コレットはダルそうに溜息を吐いていた。だが、ちゃんと走ってくれるあたり実はいい奴なのかもしれない。


「お? なんかいるぞ?」


 白い幅広の通路の先に見えたのは、ツノの生えたウサギ、ホーンラビットだ。


「クーの試験にちょうどいいな。ジゼル、クーに魔法を使って倒すように指示してくれ」

「はい。クー、あのウサギさんを倒して」

「クー!」


 その時、クーの前方の空間がブレたような気がした。そして、その結果はボフンッと白い煙となって消えたウサギだ。


 クーは風の人工精霊だから、風の魔法を使う。風の魔法は視認が難しくて凶悪な性能だな。


「クー!」


 クーはウサギを倒したのを確認すると、えっへんと胸を張っていた。小さなアリス似のその姿と相まって、とてもかわいらしい。


「やりましたね、クー。えらいですよ」

「クー!」


 アリスはクーの頭を撫でて喜んでいる。きっとクーに魔力を送っているのだろう。


「じゃあ、モンスターの処理はクーに任せて、オレたちは行ける所まで行こうか」

「はい」

「おう」


 その後、オレたちは最短ルートを通ってダンジョンの階層を次々と攻略していく。


 第五階層、第十階層のボスも難なくクリアしたし、道中での戦闘もクー一人で問題ない。


 そのままオレたちは第十五階層のボス部屋までたどり着いた。


「ジゼル、魔力は大丈夫か?」

「はい。いざとなったら魔力ポーションもありますから、大丈夫です」

「了解だ」

「なーんかダンジョンって思ったよりも簡単なんだな。ほとんどクー一人で倒しちまうしよ」

「退屈そうだし、ここのボスはクロエに任せようかな」

「…………あ! クロエって俺か」

「お前だよ!」


 まったく、せっかくの偽名をなんだと思ってるんだ。コードネームみたいでカッコいいじゃないか。


「俺がやっちゃっていいのか?」

「ああ、任せる」

「うし! やってやるぜ!」

「ここのボスは――――」

「行くぜー!」

「おい! 聞けよ!?」


 コレットはオレの情報も聞かずにボス部屋のドアを開けてしまった。


 途端に感じるのは明確な敵意を感じる視線だ。


 白く広い部屋の中。その中央には二メートルを超える人型の姿があった。


 敵は重厚な装備に身を包んだミノタウロス一体だ。そのヘルムの隙間からプシューと白い鼻息が漏れている。


「だりゃああああああああああああ!」

「あ! おい!?」


 コレットは敵を前に怯えることなく突き進む。それ自体は臆病風に吹かれるよりよっぽどいいことなのだが、少しはオレの話も聞いてほしいところだ。


「まったく……」

「コレットらしいですね」


 これにはさすがのアリスも苦笑いだ。


 ミノタウロスはコレットの接近に気が付くと、その大きな両手斧を振り上げる。防御などは一切考えていない攻撃一辺倒の構えだ。その分、攻撃力と命中率は上がるかもしれないが、コレット相手には悪手だな。


 ガキーンッ!!!


 ミノタウロスの巨大な斧が振り下ろされ、床に叩きつけられる。


「おらあ!」


 コレットはミノタウロスの斧をギリギリで回避して、左手に持った片手斧をミノタウロスの胴に叩きつける。


 普通なら、ミノタウロスの防御は鉄壁で、そんな攻撃に意味など無い。


 だが――――ッ!


 ピシピシッ!


 ミノタウロスの鎧にヒビが入り、砕ける。


 相手の防御力を破壊することに特化した片手斧とこの前オレがコレットに贈った破城の腕輪の効果だ。


「城塞崩し!」


 コレットが即座に片手斧スキルを使う。『城塞崩し』は片手斧を代表するスキルの一つだ。その攻撃は防具破壊に特化し、相手の防御力を著しく下げる。そこに破城の腕輪の効果が乗る。その結果は火を見るよりも明らかだった。


 バキンと音を立てて、ミノタウロスの胴鎧が完全に破壊される。ミノタウロスはコレットの接近を嫌がるように後ろに下がるが、コレットは喰らい付いていく。


 こうなっては、両手斧はもはや無用の長物だ。ミノタウロスは両手斧を捨てる判断もできずに、コレットに押されていく。


 最初の一撃をコレットに避けられ、距離を詰められたことで勝負は決していた。


「だりゃ!」


 もうコレットの独壇場だった。好きにミノタウロスの胴を斬り裂いていく。


 そして――――。


 それから一分もせずにミノタウロスは白い煙となって消えた。


「しゃっ!」


 コレットはやりきったようないい笑顔を浮かべて帰ってくる。


「見たかよ? 俺様のかつやふぎゅ!?」


 そんなコレットの頭をオレは叩いていた。


「なにすんだよ!?」

「見事な戦いだった。それは認めよう。だが、少しはオレの話を聞け。これからオレたちはチームで動くんだぞ? 独断専行はよくない」

「んだよ……」

「まぁまぁ、コレット」


 ふてくされてしまったコレットをアリスが慰めていた。

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