第69話 いざダンジョンへ

 冒険者ギルドにやって来ると、朝だからか他に冒険者の姿がなかった。たぶん、みんな仕事に出ているのだろう。冒険者って意外と朝が早いんだな。


 二人を引き連れて、右側の受付カウンターへと向かう。


「いらっしゃいませ。今日はどういったご用件でしょうか?」

「こいつの冒険者登録を頼みたい。背は小さいが、今年成人済みだ」

「かしこまりました」


 仮面を外せとか、本当に成人してるのかとか言われるかと思ったのだが、面倒を嫌ったのか、つっこまれることはなかった。


「お待ちください」


 そして、無事にコレットの冒険者登録が終わり、さっそくダンジョンに行こうとしたら、受付嬢さんに呼び止められてしまった。


 やっぱり咎められるのかな? コレットは小柄だから、さすがに成人しているは無理があったか……。


 だが、受付嬢の言葉はオレの想定外のものだった。


「もしかしてですが、白の死神について、なにか知っていませんか?」

「白の死神?」


 なんだそれ?


「白の死神は、白い装備に白いドクロの仮面を着けた謎の冒険者です。ソロで活動し、変異個体を数多く討伐しています。その数は確認できただけでも四体。しかし、多額の賞金が貰えるはずなのですが白の死神は討伐報告に来ません。そのせいで偽物まで出回る始末でして……」


 変異個体ってレアポップモンスターのことだよな?


 それをソロで数多く討伐してるって……。もしかして、オレのことか?


 この前、レアポップモンスター狩りをしたからな。そのせいで変な噂までできてしまったらしい。白の死神ってなんだよ。恥ずかしいわ。


「なにかご存じのことがあれば、教えていただけませんか?」

「いや、なにも知らないな……」


 オレはとぼけることにした。白の死神なんて呼ばれるのは恥ずかしいし、有名になってもいいことなんてなにもない。面倒事を押し付けられたりするのは御免だ。


 冒険者としての名声が必要になれば、その時改めてカミングアウトすればいい。


 今は時期じゃない。


 歳を誤魔化してダンジョンに潜っている以上、あまり詮索はされたくないしな。


「あなた自身が白の死神本人だということはありませんか?」

「オレはペーパー級の冒険者だぞ? 買い被りすぎだ」

「そうですか……。なにか白の死神についてわかったことがあれば、冒険者ギルドに情報を頂けると嬉しく思います」

「覚えておこう……」


 こうして無駄にヒヤヒヤした冒険者ギルドでの登録は終わった。



 ◇



「白の死神だってさ。カッケーじゃん。ジルはほんとになにも知らないのか?」

「クロエ、今はジャックと呼んでくれ」


 オレはコレットに注意を飛ばす。オレたちがまだ未成年と知られれば、ダンジョンに入れなくなってしまうからな。そんなの耐えられない。


「それで、お兄さまは本当に白の死神について知らないのですか? たしか、お一人でダンジョンに行ってましたよね?」


 アリスも白の死神の正体が知りたいのか、キツネのお面がオレを見上げてきた。


「……たしかに変異個体を何体か倒したのは確かだが、オレじゃない可能性もある」


 オレ以外にも、レアポップモンスターのドロップアイテムを狙っている奴がいるかもしれないからな。そう考えるのが自然だ。


「きっとお兄さまのことですね……。普通は変異個体なんて強力なモンスターを嬉々として倒しに行きません」

「いや、でも……」


 レアアイテムを狙って狩ってる連中がいる可能性はゼロじゃない。


「どうでもいいけどよ、なんでジゼルはジャックのことをお兄さまなんて呼んでいるんだ? そういうプレイか?」

「変なこと言うな。兄妹って設定にしただけだ。その方が年齢に説得力が出るからな」

「そういうもんか?」

「あの、クロエ? ぷれいとはなんでしょうか?」

「ジゼルはまだ知らなくてもいいことだよ。クロエ、言葉には気を付けろよ」

「なんだよ。本当に過保護な兄貴みたいだな」


 ケラケラ笑うコレットに反省の色はない。まったく、アリスに変な知識を教えてほしくないんだが……。


「んなことよりもダンジョンだ。ジル……ジャック、本当にこんな紙切れ一つでダンジョンに入れるのか?」


 コレットは首に提げた冒険者証をひらひらとさせてみせる。


「入れる。現にオレやジゼルは入れたからな。それは確かにただの紙切れだが、それでも冒険者の証だ。冒険者に登録できるのは十五から。つまり、それを持っているってことは、冒険者ギルドが十五歳だと認めたということになるんだ。単なる一兵士が、冒険者ギルドと問題を起こすわけがないからな。必ず入れる」

「ほーん?」


 よくわかってなさそうなコレットだったが、実際にダンジョンを監視している兵士に冒険者証を見せると、兵士はなにか言いたそうな顔をしたが無事に通してくれたのを見て、冒険者証の扱いが丁寧になった。


「な? 大丈夫だっただろ?」

「すげーんだな、ジャックの言う通りだった!」

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