第68話 ダンジョンに行こうよ!

 オレはホクホク顔でその授業を終えた。


 たぶん、オレだけじゃなくてみんなが嬉しそうな顔をしているだろう。


 なにせ、明日、明後日は休日だからな!


 しかも、アリスと一緒にダンジョンを潜るんだ。アリスの錬金術のレベルも上がっていろいろなアイテムを使うだろうし、なんといっても今回はアリスが創造した人工精霊であるクーも一緒だ。楽しみだな。


「ニヤニヤして気持ち悪いな。休日はなにするんだ? どっか遊びに行くのか?」


 ニヤニヤしているつもりはなかったのだが、コレットに指摘されてしまった。


 しかし、コレットか……。こいつ、どうしようかな?


 コレットは『レジェンド・ヒーロー』の主人公だ。休日には、いろんなイベントが待ってるはずなのだが……。


「なんだ?」


 こいつ、イベントちゃんとやってるんだろうか?


 というか、オレとアリス以外の友だちいるのだろうか?


 まぁ、エグランティーヌのお友だちらしいから、このままエグランティーヌルートにいくのかな?


 でも、コレットもアリスの友だちだし、ここで仲間外れにするのはかわいそうか?


「コレット、実はオレとアリスはある場所に出かけるんだが……」

「お? おう、俺も付いて行っていいか?」


 オレはコレットに顔を近づける。


「うお!?」


 コレットは大袈裟に驚いたように仰け反るが、オレはさらに一歩コレットへと顔を近づけた。


「ぉ……」


 なぜかコレットの顔がうっすらと赤く染まっていく。耳なんて真っ赤だ。


「コレットは秘密は守れるか?」

「ひ、ひみちゅ……?」


 コレットの潤んだ瞳がオレを見上げる。


「そうだ。コレットは秘密を守れるか?」

「ま、守る。守るから、近いって!」


 コレットに押されて、コレットとの距離が開いた。


「はぁ、もう、なんなんだよ……」


 コレットはなぜか暑そうに顔を扇いでいた。


 今日は過ごしやすい気温だと思うんだがなぁ?


「じゃあ、明日の朝に学園の門前に集合だ」

「え?」

「まぁ、来る気があるなら来るといい」


 オレはそれだけ言うと、踵を返した。


「なんだよ、それ……」


 コレットの困惑したような声が背後から聞こえてきた。



 ◇



 次の日。


 学園の門前に行くと、すでにアリスとコレットが待っていた。


「おはよう、二人とも」

「おはようございます、ジル様」

「おう。で? 秘密ってなんだよ?」

「それはまた後でだな。こっちだ」

「あん? 馬車は使わないのか?」

「今日は歩きだ」


 オレは学園からしばらく離れると、ようやく今日の目的をコレットに伝えることにした。


「いいか、コレット。オレたちは今からダンジョンに潜るぞ」

「ダンジョンに? ダンジョンって十五にならないと入れないんじゃないのか?」

「それが入れるんだなー。まずは装備を買いに行くぞ!」

「おう?」


 オレとアリスは、コレットを連れて冒険者用の装備を売っている店へと入った。


 アリスに任せて、コレットの装備を見繕い、忘れずにコレット用の仮面も買い、支払いをしようとした時だった。


「俺の装備だからな。俺が払う」

「大丈夫か?」

「まあな!」


 そういえば、コレットは新人戦の賭けで爆勝ちしたんだっけか。


 それから宿屋で部屋を借りてそれぞれ装備に着替えていく。


 コレットの装備は、黒地に赤のラインが入った装備だった。武器は片手剣と片手斧だ。オレがプレゼントした破城の腕輪も付けている。


「かわいい!」


 着替えてからアリスとコレットと合流すると、アリスが感激の声をあげてオレを見ていた。オレの装備は白虎装備。まぁ、猫耳猫尻尾の装備だからな……。かわいいと言われるのもわかる気がするが、あんまり嬉しくない。


「ジル様、とてもかわいらしいです! あの! お耳を触ってもいいですか?」

「ああ、好きにしてくれ……」

「まあ! ふわふわですね! まるで本物の耳みたいです! 尻尾まで猫ちゃんなんですね! ジル様かわいすぎます!」


 アリスのテンションはすごかった。その顔はキツネのお面に隠れて見えないが、目はキラキラ輝いている気がした。


「クー!」


 アリスのテンションが移ったのか、クーまで楽しそうにオレの猫耳の間に陣取っていた。


「なあ」

「ん?」


 声に振り向けば、深紅の仮面を被ったコレットがもじもじしていた。


 こんなコレットは初めて見るな。なにかあったのか?


「その、俺も触っていいか?」

「え?」

「だから、その耳とか、尻尾とか、俺も触りたい」

「ああ……」


 コレット、お前もか……。


「もう好きにしてくれ……」

「おう!」


 それからしばらくオレはアリスとコレットのおもちゃになったのだった。


 その後、存分にオレをもふもふした少女プラスワンたちを引き連れて、冒険者ギルドに歩いて向かう。


 コレットの冒険者証を作るためだ。これさえ作ってしまえば、ダンジョンに入りたい放題だ。


「コレット、お前の偽名だが、なにか候補はあるか?」

「うーん……。クロエ、とか?」

「じゃあ、クロエにしよう。これからダンジョンに潜る時は、オレのことはジャック、アリスのことはジゼルと呼んでくれ」

「おう! なんか面白いな!」


 コレットは楽しそうにしていた。たぶん、ダンジョンに潜れるのが嬉しいのだろう。その気持ち、わかるわー。

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