第72話 参戦
「ジルベール・フォートレル、お呼びにより参上いたしました」
次の日。オレはエグランティーヌの離宮を訪れていた。
エグランティーヌはオレに用があるらしいが、その内容は聞いていない。なんだか嫌な予感がした。
「立ってください、ジル。それではお話ができません」
見上げると、後ろにエヴプラクシアを控えさせたエグランティーヌがニコリと笑みを浮かべ、自分が座る向かいのソファーに手をかざした。
「どうぞこちらに座ってください」
「はっ! 失礼いたします」
ソファーに座ると、中年のメイドさんがお茶とお菓子を用意してくれた。
その後、エグランティーヌがテーブルに置かれていたハンドベルを鳴らすと、控えていたメイドさんたちが姿を消す。
人払いだと? エグランティーヌはなにを話すつもりなんだ?
オレの中で嫌な予感がグーンと上がっていくのを感じた。変な汗まで出てきてしまった。脇の下が気持ち悪い。
「ジル、単刀直入にお伺いしますね。あなたは昨日、アリスとコレットを連れてダンジョンに行ったでしょう?」
「ッ!?」
バレてる!?
なぜバレた!?
いや、鎌かけかもしれない。動揺するな、ジルベール!
「かわいらしい猫のような恰好をしていたらしいではないですか。わたくしにも見せてはいただけませんか?」
「くっ!?」
確実にバレている!?
「はぁ……」
オレは降参を示すように両手を軽く上げた。
こうなった以上、黙っていてもらうように頼むしかないかぁ……。
「そのポーズ、懐かしいですね」
エグランティーヌは眩しいものを見るような目でオレを見ていた。
そういえば、幼い頃のジルベール、まだ将来を夢見ていたエグランティーヌと婚約していた頃もよく降参のポーズしてたっけ。
エグランティーヌを泣かすとエドゥアールがどこからともなく出張ってくるからね。泣かさないように必死だった覚えがある。
まぁ、今回はオレの負けだ。オレの秘密を知られた以上、エグランティーヌには黙っていてもらわないといけない。そのためならば、多少の損害はやむなしか。
「エグランティーヌ殿下、たしかに私はダンジョンに潜っています。私はもっと強くなりたいのです。なのでどうか、黙っていてはもらえませんか?」
「新人戦で優勝しながら、さらなる強さを望むのですね。なにがそこまであなたを駆り立てているのですか?」
無論、連座で処刑されたくないからだ。もし連座で処刑されることになっても、ダンジョンの奥地で生きていく覚悟である。そのためには強くあらねばならない。
だが、これはまだ未来の情報だ。今ここで話すわけにはいかない。
いずれ話すことになるだろうが、それは今じゃない。
オレは敢えて深い笑みを浮かべて口を閉じた。
「だんまりですか……。ですが、いいでしょう。わたくしはあなたがダンジョンに潜っていることを通報したりはしませんわ。その代わり……」
きた。おそらくこれがエグランティーヌの本命だ。いったいエグランティーヌはオレになにを求めてくるのだろう?
想像するだけで腹が痛い。
「その代わり、わたくしもダンジョン攻略に連れていってください」
「え?」
エグランティーヌもダンジョンに行きたいのか?
「姫様!? なりませんよ!」
「そうですよ! ダンジョンなんて危ないんですから!」
さすがにエグランティーヌがダンジョン潜ることは知らされていなかったのか、エグランティーヌの後ろに控えていたエヴプラクシアとコルネリウスが猛反対する。
一国のお姫様がお忍びでダンジョンに潜るなんてそりゃもう大問題だ。
それは個人の強さへの信奉が強いこの国でも変わらないらしい。
「しかし、それではますますジルとの強さに差が生まれてしまいます。あなたたちも新人戦での悔しさを忘れたわけではないでしょう?」
「それは……」
「ですが……」
そうか。そういえば、この三人ってオレが新人戦で倒したメンバーだわ。
「このままジルたちだけダンジョンに潜られたら勝てなくなってしまいます」
「しかし、それはジルベールにこれ以上ダンジョンに潜らないように言い渡して学園に通報すればよいだけでは?」
「それではわたくしがジルの目的を妨げてしまうではないですか! そんなの我慢できませんわ!」
「はぁ……。姫様……」
エヴプラクシアが頭が痛いとばかりにおでこに手を置いた。
なぜかはわからないが、エグランティーヌはオレの目的を応援してくれるみたいだ。そのままがんばって二人を説き伏せてほしい。
「でも、姫様がダンジョンに潜ると、ワシたちが怒られてしまうのですが……。それに、もしお怪我をしたらたいへんですし……」
「そこはわたくしの騎士であるあなたたちの出番ですわ」
「えっ!? もしかして、ワシたちも潜るんですか!?」
「勘弁してよ……」
「そうですよ! みんなでダンジョンに潜りましょう!」
「姫様、どうか考え直してください。顔が割れているわたくしたちがダンジョンに潜れるわけ無いではありませんか」
「そこはこれから方法を考えましょう。とにかく、わたくしはこの件に関しては一歩も引く気はありません!」
エグランティーヌはどうしてもダンジョンに潜りたいらしい。エヴプラクシアやコルネリウスがどんなに説得しても首を縦には振らなかった。
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