第64話 アリスとデート

 いよいよアリスとのデート当日。


 オレは学園の門でアリスを待っていた。当然、約束の時間の少し前にやってきて、いろいろと準備は済ませていた。


「すみません。お待たせいたしました」

「いや、アリスは時間ちょうどだよ。オレが早く来すぎたんだ。アリスに早く会いたくなってしまってね」

「まあ!」


 クスクスと笑うアリスは世界一かわいらしい。


 アリスはアウシュリーで買った黒色の簡易的なドレスを着ていた。アリスの白い肌や銀髪が映えるね。すばらしい。


「じゃあ、行こうか」

「はい」


 そうしてオレはアリスの手を取って馬車に案内する。


「馬車、ですか?」

「ああ、学園に頼めば用意してくれるからね。劇場は学園から遠いから用意しておいたよ」

「ありがとうございます、ジル様」


 アリスが感激したようにぽうっとした顔でオレを見ていた。


 ああ、スクショがしたい!


 アリスをエスコートして馬車に乗り込むと、まずは劇場に向かう。まだ少し早い時間だが、遅刻するよりもマシだろう。


「すごい建物ですね!」

「そうだね」


 王立劇場は、王様の威信を示すためにか、すごく立派な白い石造りの建物だった。いたるところに繊細な彫刻がなされていて、日本的な美とは方向性が違うけど、それでも美しい。


 よく見れば、この劇場も左右対称だな。学園も左右対称だったし、この国では左右対称が美しいとされているのかもしれない。


「わあ!」


 劇場の中に入れば、木目の美しい内装が目に入る。大きな絵画や壺なんかも飾ってあって、まるで博物館のような雰囲気だ。来ている他の客もその身に着けた服から裕福なことが窺える。たぶん、貴族や裕福な商人だろう。観劇はまだ上流階級の趣味といった感じだね。


「ふわふわですね」

「そうだね」


 貴賓席である二階席で指定された席に座ると、椅子のふかふか具合に驚く。逆に腰に悪そうな柔らかさだけど、たぶんこの国ではこれが最上とされているんだろうな。


「思ったよりも広いな」

「そうですね。この劇場いっぱいに声を届かせるのだから、役者さんってすごいですね」


 アリスは初めての観劇が楽しみなのか、ちょっといつもよりテンションが高い気がした。目がキラキラしててかわいい。連れてきてよかったなぁ。


 遠くの席にコルネリウスらしき大きな人影が見えたが……。たぶん本人だろう。コルネリウスは観劇大好きだからな。


 ガヤガヤとしていた場内が、オーケストラによって奏でられる旋律に沈黙がおりていく。いよいよ劇の開始のようだ。


 事前にコルネリウスに聞いていたけど、オーケストラの演奏は迫力があるな。体の芯から震えそうだ。


「始まりますね」

「ああ、楽しもうか」

「はい!」


 こうして物語は始まる。



 ◇



 パチパチパチパチパチパチッ!


 鳴り止むことがない拍手の中、役者たちが舞台の上で頭を下げていた。


 前世を含めて初めてのちゃんとした観劇だったけど、これはすごいな。コルネリウスがハマるのもわかる気がした。


「ぐすっ……。マキューシオ、どうして……」


 隣のアリスも目を赤くして泣いている。それだけ心を揺さぶられたのだろう。


 劇が終わっても、オレたちはしばらく余韻に浸って動きたくないほどだった。


 く~!


 だが、いくら感動的な劇を見てもお腹は減る。震源地はアリスのお腹だ。アリスは恥ずかしそうにお腹を押さえていた。


「すまない。オレの腹が鳴ってしまったようだ。アリス、食事に行こうか」

「え? は、はい!」


 その後、オレとアリスは劇場近くのレストランで昼食を食べながら劇の感想を語り合った。その時、コルネリウスに教えてもらった劇の解釈や原作の豆知識なんかが役に立った。


 さすがだな、コルネリウス。観劇初心者であるアリスの質問に答えられるようにオレに知識を授けてくれたのだろう。


 おかげでアリスにいい格好をすることができた。


「さて、アリス。次はどこに行こうか?」

「ジル様と一緒ならどこへでも」


 そう言って少し恥ずかしそうに俯くアリス。たぶん劇に感化されちゃったのかな?


 そんなアリスもかわいらしい。


 くそっ! スクショしたい!


「そうだなぁ……」


 本当ならダンジョンにでも行きたいところだが、今日はアリスとのデートだ。やめておこう。さすがのオレでもダンジョンデートというのはどうかと思うのだ。


「実は御者にはこのまま王都の観光スポットを回るように言ってあるんだ。回ってみて、気になった所があれば降りればいいさ。じゃあ、行こうか」


 オレが劇で主人公がやっていたようにアリスへと手を伸ばした。


「はい!」


 アリスはオレの手を取ると、すぐに腕を組む。しかも手も恋人つなぎだ。学園ではさすがに恥ずかしいのか、やってくれなかったからこれも久しぶりだな。


 オレたちは、そのまま馬車に乗り込むと、王都の観光スポットを回っていった。中には石造りの野外演劇場もあって、平民たちが観劇して楽しんでいた。


 観劇はこの国の重要な文化なのかもしれないね。

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