第63話 観劇に行こうよ!

「おはよう、コルネリウス」

「ジル、おはよう」


 今日も早起きしてエグランティーヌの騎士の仕事をする。まぁ、本当の騎士にしてみればお遊びみたいな勤務内容だがな。


「おはようございます、二人とも」

「「おはようございます、エグランティーヌ殿下」」


 今日も離宮でエグランティーヌを迎えて、教室まで護衛だ。


 教室に着くと、ちらほらと生徒の姿が見えた。最近気が付いたのだが、彼らの目的はエグランティーヌと仲良くなることだ。


「おはようございます、エグランティーヌ様」

「アドリーヌ、おはようございます」

「先日はわたくし主催のお茶会にご出席いただきありがとうございました。エグランティーヌ様とお近づきになれて嬉しいです」


 ただ、そんな彼らにも身分の差があるのか、エグランティーヌに挨拶するのは親の爵位が高い順に貴族が並び、その次に平民になる。たまに順番で揉めることもあるが、まぁ、エグランティーヌの前だからみんな大人しくしている。問題は起きにくい。ただ一人の例外を除いて。


「おう、エグランティーヌ! 昨日はありがとな」


 まぁ、その例外が我らが主人公であるコレットだ。


「コレット……。あなたの言葉遣いはまったく直りませんね……」

「姫様、あれは原人の類です。ものを覚えるということができないのですわ」

「そんな釣れないこと言うなよ、シア。で? 今日の菓子はなんだ?」


 まったく悪気が無くエグランティーヌをナチュラルに呼び捨てだし、侯爵という高位貴族の娘であるエヴプラクシアにもため口だ。


 普通なら咎められてしかるべきだが、当のエグランティーヌとエヴプラクシアがコレットの態度を許しているため誰も文句を言うことができない。


 しかも、コレットはエグランティーヌのお友だちだ。ある意味、エグランティーヌのお墨付きな状態なのである。他の生徒もコレットの言葉遣いを注意はできても無礼だと言うことはできない。


 そんな不思議な状態になっていた。


「アリス、今度の休みなんだが……」

「それでしたらジル様、わたくし連れていってほしい所があるんです」


 アリスをダンジョンに誘おうとしたら、アリスが行きたい場所があると言い出した。あまり自己主張しないアリスには珍しいことだな。どこへなりとも案内しようじゃないか!


「へえ、どこなの?」

「劇場です。今やっている劇がとても感動的なんですって!」

「アリスも観劇に興味がわいたの?」

「その、お茶会でみなさんがこぞって絶賛するものですから、つい……」


 アリスが恥ずかしそうに言った。


 なるほど。みんな知ってるものを自分だけ知らないのは疎外感があるよね。それに、たかがお茶会と思うかもしれないが、お茶会は貴族女性の戦場だ。そこで話題に入れないというのは致命的だね。


「わかった。今度の休みは久しぶりにデートしよう。観劇したり、王都の観光をするのもいいね」

「デート……!」


 アリスが顔を赤らめてうんうんと頷いた。その初々しい反応がかわいらしくてたまらない。アリスが喜ぶ最高のデートにしよう!


「というわけで、コルネリウス。力を貸してくれ?」

「どういうわけだい?」


 授業が終わって男子寮に帰ってきたオレは、すぐにコルネリウスの部屋を訪れていた。コルネリウスは観劇大好きっ子だ。きっと今話題の劇についても知っているだろう。


「まぁ話せば長くなるんだが、今度アリスと観劇に行くことになったんだ。オレはアリスに観劇を最大限楽しんでもらいたい。だから、コルネリウスに話を聞いて、観劇の際の注意点や注目ポイントなんかを教えてもらおうと思ってな」

「そういうことなら、ワシも力を貸すよ。ジルには観劇のすばらしさを知ってもらいたかったしね」


 コルネリウスは、嬉しそうに目を細めていた。


 コルネリウスを見ていると、「目は口程に物を言う」って真実なんだなってよくわかるね。


「まずは注意点なんだけど、観客は基本的に静かにしていないといけない。役者の人たちのセリフを遮ってはいけないんだ。声を出していいタイミングっていうのはあるんだけど、そういうのは初めてだとたぶんわからないから、基本的に黙って静かに劇を見た方がいいよ。まぁ、役者の人や他のお客さんの迷惑にならない範囲の小声で話すくらいは見逃してもらえるけどね」

「なるほど」


 アリスと小声で会話するのはOKみたいだ。


「基本的に、舞台や他のお客さんの迷惑にならないようにすれば問題ないよ。それぐらいかな、気を付けるべき点は。今話題になってるのは、『マキューシオとフランジェリン』って劇なんだけど、ジルはどのくらい知ってる?」

「女の子のお茶会で話題に上がっていたことしか知らないな。面白いのか?」

「そりゃあもう。女の子は好きそうな内容だよ。なにせ、貴族の悲恋ものの劇だからね」


 それからオレは劇のネタバレにならない程度に原作も読んだらしいコルネリウスから原作の豆知識や劇を見るうえで知っておくといいことなんかも教えてもらった。


 コルネリウス、いきいきしてるなぁ。

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