第58話 ダンジョン休日

 休日。


 アリスもコレットもお茶会の練習で相手をしてくれないので、暇になったオレはソロで王都のダンジョンにやってきた。


 安宿で例の猫耳装備である白虎装備を着て、タスラムを装備し、ちゃんと白いお面を被る。


 これでオレがジルベールだと露見することはないだろう。


 猫耳はちょっと恥ずかしいがな。


「ペーパー級か。死ぬなよ」


 案外優しい王都のダンジョンを守る兵に肩を叩かれて、オレはダンジョンの中に入った。


 オレは第百一階層までのクリアデータを持っているので、好きな階層に飛ぶことができるが……。まぁ、第一階層から順番に攻略していくか。レアポップモンスターに会えるかもしれないし。


 そんなわけで第一階層から攻略することにしたオレは駆け足で次々と階層を攻略していく。すべてのモンスターがワンパンで倒せるし、ドロップアイテムも大したものが出ないからな。


 そうして第十階層まで一気に攻略した。ボスドロップ品はハズレだったな。まぁ、これでも売れば多少の金になるだろう。


 見つけたレアポップモンスターは0。やっぱりそんな簡単には出会えないみたいだ。


 だが、塵も積もれば山となるというやつだろうか。新しい技を覚えた。


 その名も『ソニックブロー』。ゲームでは、あまりにも速い拳はソニックブームを生むとフレーバーテキストがあり、風属性の魔法ダメージの追加攻撃のあった技だ。


 ちなみに、タスラムを装備していると、打撃と風属性魔法ダメージの両方に無属性魔法ダメージが乗るという極悪仕様だった。


 『ソニックブロー』を覚えたということは、オレの格闘スキルもかなり上がってきたな。いい感じだ。


 ダンジョンを出ると、もうすぐ夕方という時間帯だった。だいぶ太陽が傾いている。


「そうだ。鉄球の補充をしないと……」


 そういえば、王都のダンジョンで影を倒す戦闘で鉄球をかなり消費したんだった。補充しておかないとな。


 とはいえ、オレは王都の地理にはあまり詳しくない。どうしたものか……。


「冒険者ギルドで訊いてみるか」


 王都の冒険者ギルドはいくつか支部があり、ダンジョンの近くにも冒険者ギルドの支部があった。


 石造りの古風で大きな建物。それが冒険者ギルドだ。


「二十階層クリアを祝って、かんぱーい!」

「「「「「かんぱーい!」」」」」

「知ってるか? オレールのダンジョンで怪しい噂があってよ……」

「お姉さん、おかわりなんだな!」

「白の死神? そんなの与太話だろ?」

「メタルスライムをソロで討伐なんてできるわけがねえ」

「のはははははは!」


 中に入ると、ガヤガヤと冒険者たちが騒いでいた。どうやら冒険者ギルドの中は、左半分が飲食スペースになっているらしい。


 冒険者って柄が悪いのが多いからね。飲食店の中には冒険者お断りの店も少なくない。そんな冒険者にとって、気兼ねなく騒げる場所を提供する冒険者ギルドは理に適っているな。


 オレは右側にある冒険者ギルドのカウンターに向かった。


「いらっしゃいませ。今日はどのような御用でしょうか?」


 さすが、王都の冒険者ギルドだな。オレールの受付嬢よりも綺麗でお淑やかそうな受付嬢だ。


「ちょっと訊きたいことがあってな。鍛冶屋を探しているんだが、場所を教えてほしい」

「鍛冶屋ですね。かしこまりました。鍛冶師の方にも得意不得意がございますので、なにを作るかお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「こんな感じの鉄球だ」

「鉄球……ですか?」


 カウンターテーブルに一つの鉄球を転がすと、受付嬢が不思議そうな顔で転がる鉄球を見ていた。


「触ってもよろしいですか?」

「ああ」

「この歪な形が必要なのでしょうか?」


 鉄球は拾って再利用しているので、欠けたり凹んだりしている。


「できれば綺麗な球体がいいが、これぐらいまでだったら許容できる。ただ、できれば早い方がいいな」

「なるほど。わかりました。でしたら……」


 受付嬢が一軒の鍛冶屋を教えてくれた。そこは鍛冶師の見習いが多く、見習いの練習に鉄球を作ってもらえば早いのではないかという話だった。


「ありがとう、助かった」

「いえ、お役に立ててなによりです」


 用も済んだので冒険者ギルドを出ようとして、ふとクエストボードが目に入った。


 以前ならスルーしていただろうが、今のオレは手持ちの金に限りがある状態だ。割のいいクエストがあったら受けてみるのもいいかもしれない。


「なになに……」


 クエストボードを見ると、多種多様なクエストが貼ってあったが、どれも一癖ありそうなものばかりだった。


「かかる時間のわりに儲けが少ないな……。もしかして、冒険者って儲からないのか?」

「よお! どうしたんだ?」


 クエストボードの前で突っ立っていると、ジョッキを持った男に声をかけられた。


「ああ、冒険者ってあまり儲からないのかと嘆いていたんだ」

「なんでえ、お前、男かよ。かわいい格好してるから、女かと思ったぜ」


 オレだって好きでこんな格好してるわけじゃない。でも、この白虎装備が現時点での最強なんだよ!

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