第57話 お茶会の練習を
「助けてくれ! お茶会ってどうすりゃいいんだ!?」
コルネリウスと話し終わって、しばらくしてから教室にやってきたアリスとコレットだったが、二人とも焦ってる様子だった。
とくにコレットの焦り具合がひどい。
アリスは一度お茶会を経験したからか、コレットよりも落ち着いていた。
「なあジル! 俺にお茶会の作法を教えてくれ!」
「あのなあ、男のオレが女子のお茶会の作法なんて知るわけがないだろ」
「ああ……」
コレットは絶望したような表情でうなだれてしまった。
「安心しろって。アリスは一度お茶会を経験している。わからないことはアリスに訊けばいい」
「それがその……。今回は上級生の方も参加なさるようで……。わたくしもあまり自信がないのです……」
「マジか……」
上級生が参加すると、なにか作法が変わるのだろうか?
……変わりそうだなぁ。自分より目上の参加者が増えるわけだから、なにか失敗した時のリスクが跳ね上がる気がする。
「お茶会の日程までまだ時間がある。諦めるのは早い……。だが、どうするか……。まずは茶菓子が必要だろ?」
オレの言葉にアリスとコレットが頷く。
しかし、オレも多くを知っているわけではない。
このままわからない者同士で話し合っていても仕方がないな。
「待ってろ、ちょっと教師を用意しよう」
「教師、ですか?」
「すげーな貴族。教師を雇うのか?」
オレはそのまま立ち上がると、エグランティーヌの横で寝ているエヴプラクシアへと歩き出した。
その時、なぜかエグランティーヌがそわそわしていた気がするが、今はかまっている時間はない。
「おい、シア。ちょっと起きてくれ」
「……寝ていないわ。少しだけ、そう、少しだけ目を瞑っていたの……」
この気位の高いエルフは、自分の居眠りは絶対に認めないな。
「ちょっと相談があるんだ。来てくれないか?」
「ここではダメなの? もしかして、わたくしに秘密のお話かしら?」
このエルフ。自分が歩きたくないからって、暗に断ろうとしてきやがる。面倒だな。
だが、オレはそんな言葉では止まらないぞ?
アリスのためだからな。
「そうだ。シアにしか頼めないことなんだ」
ガタッ!
オレがシアの言葉に頷くと、なぜか隣のエグランティーヌが椅子を倒すような勢いで立ち上がった。その顔はまるで信じられないものを見たような顔でエヴプラクシアを見ている。
「シア、あなた、まさか……!?」
「ご、誤解です、エグランティーヌ様!」
「ご、五回も!?」
「してません! か、勘違いです!」
「で、ですが、ジルとあんなにも親しげに……。それに秘密の会話だなんて……!」
「わたくしとジルベールはそんな関係じゃありません!」
オレとエヴプラクシアがどんな関係だというのだろうか?
一緒に騎士をやってる仲間だし、新人戦では大いに観客を盛り上げたな。
「そんな釣れないこと言うなよ、シア。オレたちは一緒に観客を盛り上げた仲じゃないか?」
「か、観客!? 観衆の前でそんなことを!?」
「違います! 断じて違います! あなた、もう余計なことは言わないで!」
なぜかエヴプラクシアに怒られてしまった。そのエルフ耳は微かに赤くなっていた。
その後、どうにかエグランティーヌが落ち着きを取り戻し、オレはエヴプラクシアを連れてアリスとコレットの元に帰ってきた。
「それで、話ってなに?」
「なんでそんなに怒ってるんだよ?」
「怒りたくもなるわよ! この鈍感男!」
「オレほど敏感な男もいないと思うんだが……」
なにせオレは、日本で最新の心理学を学んできたからな。人の感情の機微には敏感な方だと思う。
「どこがよ……。まだあのコルネリウスの方がマシだわ……。それで、繰り返しになるけど話ってなに?」
「ああそうだ。今度、シアがお茶会を開くだろ? その時の作法をアリスとコレットにレクチャーしてほしいんだ」
「レクチャー? いったいなにを教えてほしいのよ?」
エヴプラクシアがアリスとコレットの方を向いた。
「そのシア様、わたくし、上級生の方がご参加するお茶会は初めてで……。それ以前にお茶会ではどのように立ち振る舞えばいいのかわからないのです……」
「俺も茶菓子用意するくらいしか知らねえぞ?」
「……この二人の面倒を見ろと、あなたはおっしゃるのね?」
「そうなる。なんとか頼めないか?」
「はぁ……。わかりましたわ。元々わたくしのお茶会が原因のようですし……」
「ありがとうございます、シア様」
「あんがとな、シア!」
こうしてシアの指導を取り付けることに成功した。その日からアリスとコレットは放課後にはエグランティーヌの離宮に呼ばれてお茶会の練習が開催されることになったのだった。
また、そのお茶会の練習にはエグランティーヌも参加しているらしい。アリスはめちゃくちゃ緊張しちゃうし、さすがのコレットもお姫様であるエグランティーヌには無礼なことはできないと思っているのか、固くなっているようだった。
「じゃあな、二人ともがんばれよ」
「「はい……」」
放課後になると二人の目が死んでいるのがちょっと心配だな……。
そんなにハードなのか?
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