第54話 エドゥアールとの邂逅

 朝。授業が始まる前だというのにやってきた男。ドワーフほどではないが背の高く、筋肉質な男だった。


 あの顔には見覚えがある。ゲーム『レジェンド・ヒーロー』で、第一王子であるエドゥアール・パラディールの側近をしていた男だ。


「オレがジルベール・フォートレルだ」


 名乗り出ると、男と目が合う。


「そこにいたか。火急の用がある故、一緒に来てほしい」

「わかった」


 この男がからんでいるということは、間違いなく第一王子案件だろう。そういえば、新人戦で優勝すると、専用のイベントがあったな。


「まさかな……」


 あれは主人公が優勝すると起きるイベントだ。ただのモブの、それも悪役モブのオレには関係ない話だろう。


 となると、どんな話だろうな?


 まさか、決勝戦でエグランティーヌをボコボコにしたのを怒ってるのかな?


 エドゥアールってシスコンだしなぁ。ありえない可能性じゃない。


 今から胃が痛くなってきたぜ……。


 王家に気に入られて、連座を回避しようとしているのに、どうしてこんなことになるんだ。やっぱりエグランティーヌに勝ちを譲るべきだったか?


「ここだ」

「ああ……」


 男に連れらてやってきたのは、エドゥアールに与えられている離宮だった。


 やっぱりエドゥアールが呼んでいたのか。


 今はあんまり会いたくないなぁ……。


 胃がキリキリするぜ……。


「入れ。失礼のないようにな」

「ああ……」


 離宮の手前の部屋に通される。たぶんここが応接間なのだろう。


 部屋に入ると、正面に金髪碧眼の美少年がいた。この国の第一王子、エドゥアール・パラディールだ。オレの一つ上だから今十三歳のはずだが、大人びて見えた。


 オレはエドゥアールの二メートルほど前で立ち止まると、そのままひざまずく。


「ジルベール・フォートレル、お呼びにより参上いたしました」

「よく来てくれた、ジル。久しぶりだな」

「お久しぶりでございます」


 エドゥアールとは、エグランティーヌの婚約者だった過去から何度か会ったことがある。あの時はちょっと険悪な感じだったが、今はニコニコと笑顔を浮かべていた。


 エドゥアールはシスコンだからな。エグランティーヌの婚約者だったオレにはあまりいい感情を持っていなかったのだろう。


 だが、オレがエグランティーヌの婚約者ではなくなったからか、今は隔意はないようだ。


「そんな所でひざまずいてないで、こっちのソファーに座ってくれ。今日は私的な場だ。楽にしてくれ」

「はっ。ありがとうございます、殿下」


 エドゥアールに勧められたソファーに座り、エドゥアールと向かい合う。


 エドゥアールはニコニコ顔で上機嫌のように見える。だが、相手は王族だ。腹芸なんてお手の物だろう。


 やっぱりシスコンの前でエグランティーヌをボコボコにしたのは感じ悪いよなぁ……。きっと怒られるんだ……。


 戦々恐々とした気持ちでエドゥアールを見ていると、彼がゆっくりと口を開く。


「今日はジルにいい話を持ってきたんだ」

「……いい話、ですか?」


 予想外だな。もしかして、上げてから落とす作戦か?


「ジル、正直言うと、私はキミにあまり期待していなかった。だが、キミは新人戦でその有用さを存分に見せてくれた。魔法に対する絶対的な防御能力。しかも、その魔法を任意に発射することもでき、更には格闘術の腕前もいい。単刀直入に言おう。私の騎士にならないか?」

「私が、殿下の騎士に……?」


 これって主人公が新人戦で優勝した時に起こるイベントと一緒じゃね?


 新人戦で優勝した主人公は、その力を認められ、エドゥアールに騎士に誘われる。どうやらオレはエドゥアールに誘われるほど活躍を認められたらしい。


 まぁ物理攻撃も収納できるのだが、そこまではさすがのエドゥアールにもわからないだろう。しかし、それでもエドゥアールのお眼鏡に適ったみたいだ。


 これってかなりチャンスなんじゃないか?


 王族であるエドゥアールの騎士になれば、もちろんエドゥアールといつでもコンタクトが取れる。それはこの国の王にも間接的なコネが作れるのと一緒だ。


 オレはムノー侯爵家のバカ騒ぎに巻き込まれたくない。ならば、積極的にオレの有用性を示し、王家への忠誠を示すことが大事だ。


 その手始めがムノー侯爵の王国への反意の密告になるだろう。


 まぁ、オレが密告するまでもなくムノー侯爵の反逆は失敗するのだが、それでもオレがそれに加わっていないことをちゃんと証言するのが大事だ。


 どうやって王族に密告できる立場を持つか悩んでいたが、まさか向こうから来てくれるとは。


 ここは乗るしかない。このビッグウェーブに……!


「はい、おうけ――――」

「いけません、姫様!」


 ん? なんか騒がしい……?


「お兄さま! わたくしに黙ってジルを自分の騎士にしようだなんて! 見損ないましたわ!」

「え!?」


 そこには、急いで来たのか制服も髪も振り乱したエグランティーヌの姿があった。

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