第45話 アリスの二回戦

「おかえり、コレット。どうしたの?」


 賭博から帰ってきたコレットだが、かなり緊張した面持ちでオレの隣に座った。


「ジル、アリスは勝てるよな……?」

「アリスが本来の力を出せれば勝てると思うよ。ただ、アリスは緊張してるみたいだったからなぁ……」


 アリスにとって最大の敵は緊張なのかもしれない。


「そうか……」


 オレの言葉を聞いたコレットは苦しそうに胸に手を置いて尋常じゃないくらい汗をかいていた。呼吸も乱れているし、両目をかっぴらいている。


「どうしたんだ? 気分が悪いなら保険室に連れていくが?」

「大丈夫だ。それより聞いてくれ……。俺……。俺は、全財産アリスに賭けてきた……」

「はあ?」


 賭けてきたって、また賭博してきたのか、こいつ。


「アリスが負けたら、俺は全財産を失う……。このヒリつく感じが堪らねえ……」

「えぇ……」


 そこには綺麗な顔をしたギャンブルジャンキーがいた。


 こいつ、一回勝ったからって調子乗ってるな……。


「アリスは勝てる! そうだろ!?」

「あ、ああ……。それよりお前、オレの貸した金はどうしたんだ?」

「あ……」


 コレットが一気に青ざめた表情をした。


 まさかこいつ!?


「お前! オレの金も全部賭けてきたのかよ!?」

「あ、ぁ、あ、安心しロッテ、アリスが勝ちゃ倍にして返してやるヨ!」

「こいつ……」


 本当に主人公か? 主人公がギャンブルジャンキーってどんなゲームだよ。そんな伏線なかったぞ?


「返せなかったら借金だぞ?」


 オレの言葉に、なぜかコレットが少し恥ずかしそうに顔を赤くする。


 コレットは見た目だけなら美少女だからな。その破壊力は抜群だ。


 初めてアリス以外でスクショしたいと思ったぞ!?


 オレはひょっとしたら赤面フェチなのか……?


 コレットが上目遣いで唇を震わせながら開く。


「…………俺にエッチなことする気か……?」

「しねえよ!」

「しねえのかよ! それはそれでムカつくんだけど!」

「どうしろって言うんだ!?」


 もうわけがわからないよ!



 ◇



 オレとコレットが言い合っている間にも試合は進み、ついにアリスの番が巡ってきた。


 アリスの相手は片手剣と盾を装備したオーソドックスな戦士だな。だが、シード選手として選ばれた手練れだ。きっとそこそこ強いのだろう。


「アリスの相手ってあいつかよ……」


 隣でコレットが嫌そうな顔で呟く。


「知ってるのか?」

「同じ片手剣使いだからな。授業で何度か模擬戦をやったことがある。俺は勝てたことがねえ……」


 コレットが悔しそうに言った。


 さすがはシード選手といったところか。現時点ではコレットよりも強いらしい。


 だが、オレが名前を知らないということは、あいつモブなんだよなぁ。


 ならば、アリスにも勝機はある。


「がんばれよ、アリス」

「そうだ、アリス! 負けるんじゃねえぞ!」


 負けたら無一文どころかオレに借金だからな。コレットの応援には熱が入っていた。


「では、始め!」


 審判の試合開始の合図と同時に両者が動いた。アリスはバックステップと同時にポーションを投げる。相手の男は盾を前に構えてアリスへと突進した。


 アリスの投げたポーションは、男の盾に命中し、激しく燃え上がる。アリスお得意の発火ポーションだ。


 男は即座に盾を捨てると、アリスへの突進を続けた。


 アリスは更にバックステップを踏んでで距離を稼ぐが、男の方が速い。


 アリスがなにかを頭上に投げた。


 投げた途端にすぐ爆発し、細かな粒子が空間を舞う。


 すると、アリスに突進を仕掛けていた男のスピードが鈍った。


「ごほっ!? げはっ!?」


 男の苦しそうな声がここまで聞こえてきた。


 だが、同じ空間にいるというのに、アリスは平気そうだ。


「そういうことか……!」


 おそらく、アリスが使ったのは催涙爆弾だろう。そして、アリスが無事な理由はきっと――――。


「なあ、なんで相手だけ苦しんでてアリスは平気なんだ?」

「たぶんだが、アリスには耐性があるんだ」

「たいせい?」


 錬金術に失敗は付きものだと聞く。アリスはその失敗の過程で薬物に耐性ができているんだ。


 そういえば、ゲームでも錬金術師は状態異常への耐性が高かった。


 ゲームをやっている時は、仲間を治療する錬金術師が状態異常で行動不能にならないようにという配慮だと思っていたんだが、どうやら錬金術師の状態異常耐性にはちゃんと理由があったようだ。


 アリスが真っ黒なボールを投げる。ボールはロクに動けない男の顔に当たり、男の顔は黒く染まった。


 男の戦意はまだ挫けないのか、果敢に剣を振っているが、まるで見当違いの所で剣を振っている。男にはアリスの姿が見えていないのか?


「なあ、あれって?」

「たぶん、男は目が見えていないんだ」


 おそらく盲目の状態異常になっているのだろう。男の剣はアリスには届かない。


 そして、アリスはゆっくり男の背後に回り込むと、手に持っていた杖で男の頭を強打した。


 不意打ちになったのだろう。男は一撃で昏倒した。アリスの勝利だ!

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