第44話 第二回戦②

 オレは高速で飛んできたファイアボールの前に収納空間を展開した。


 そして、もしダメだった時のために一応回避もする。


 ファイアボールは、収納空間に触れると、そのまま収納空間の闇に飲み込まれていった。


 成功だ!


 オレの【収納】は魔法も収納できる!


「い、いったいなにが……!?」


 対戦相手の少女も困惑したように声をあげた。


 しかし、無傷のオレを見つけると、再度杖をオレに向けて突き付ける。


「ふぁ、ファイアボール!」


 少女の若干の迷いを含んだ声で放たれたファイアボール。


 オレは先ほどと同じように収納空間を展開してファイアボールを飲み込む。


 ファイアボールは質量が軽いのか、収納してもほとんどMPを消費しなかった。これならいくらでも収納できそうだ。


 そうだな。この先なにが起こるかもわからないから、少女の魔法はできる限り収納しておきたい。


 そう考えたオレは、敢えてゆっくりと歩いて少女へと向かう。


「気味が悪いですわ……ね!」


 少女が魔法で創り上げたのは、巨大な炎の槍だ。


 ファイアランス。中級魔法が使えるということは、彼女はギフトを授かってから懸命に自分の力を磨いてきた証明である。


 だが……。


「嘘……」


 少女が渾身の力を籠めて造り上げたファイアランスも底が見えない闇の収納空間へと消えていった。


 カツンッと靴音を響かせて少女に近づくと、少女の肩が震えた。


 そんなに怖がらなくてもいいのに……。


「あなた、いったい何者ですの……?」

「最初に言っただろ? 今はジルベール・フォートレルと名乗っている」

「戯言を……!」


 少女の目は死んではいなかった。大きく肩で息をしながら、しかし、もう一度ファイアランスを構築する。


 きっとファイアランスが彼女の最大火力なのだろう。


「消し炭になりなさい!」

「展開……」


 少女が創り上げたファイアランスは、円形闘技場の床を融解させながら迫る。しかし、ファイアランスはまたしても収納空間の闇へと消えていった。


「そんなバカな……」


 それだけ言うと、少女は力尽きたように倒れてしまった。


 きっとMPが尽きたのだろう。MPを使い尽くすと、気絶してしまうのだ。


「しょ、勝者、ジルベール・フォートレル男爵!」


 審判が勝者を告げるが、歓声は起きず、ただただ沈黙が円形闘技場を支配していた。


 その時、パチパチと一人の拍手が聞こえた。


「ジル様、さすがです!」

「やったぜジル! 大儲けだ!」


 アリス、コレットの拍手に続いて、パチパチと拍手が聞こえた。


 エグランティーヌ……。キミも祝福してくれるのか……。


 拍手を送ってくれたのはエグランティーヌだけではない。


 二年生の席にいる一際輝きを放つ金髪碧眼の人物。あれはゲームでも馴染みのある顔だ。


 エドゥアール・パラディール第一王子。ルート次第ではコレットと結ばれる王子様だ。


 王族二人が拍手をしたからか、まばらなだった拍手は次第に大きくなっていく。


「ジルベール君か、たしかシード下だったよな?」

「あの能力はいったい何なんだ!?」

「あれがすべての魔法を吸収できるとしたら……? 恐ろしい……」

「魔法使い殺しか……」


 歓声とは違うどよめきを含みながらも、拍手はさらに大きくなっていった。


 みんな難しそうな顔をしているのは、もしかしたらオレを倒すための方法を考えているのかもしれないな。


 さすが個人の強さに重きを置くパラディール王国民。みんな、脳筋すぎるぜ!



 ◇



「ただいま」

「おかえりなさい、ジル様」


 自分の席に戻ると、アリスが温かく迎え入れてくれる。コレットの姿は無かった。


 それに、なんだか近くにいたクラスメイトのオレを見る目が少し変わった気がする。


「コレットは?」

「賭博の換金に行っています。大儲けだってはしゃいでいましたよ」


 アリスが困ったようにオレに告げた。まぁ、大儲けしたならいいんじゃないかな? 今度、コレットに奢ってもらおう。


「すごかったです、ジル様! ジル様の力は魔法まで収納してしまうのですね!」

「まあね。オレも実験のつもりだったんだけど、上手くいってよかったよ」

「新人戦で実験だなんて、ジル様の度胸はすごいですね。わたくしも分けてほしいです……」

「こういうのは慣れも必要かもね。アリスもそのうち慣れるよ」

「そうだといいですけど……」


 アリスは困ったような笑みを浮かべていた。


 その顔もかわいい! スクショしたい!


 それと同時に無性にアリスを抱きしめたくなったけど、鋼の精神で耐える。


 みんな見てるからね。オレたちは清く正しい婚約者なのだ。


「それはそうと、そろそろアリスの出番じゃない?」

「そうですね。そろそろ行かないと……」


 アリスが席から立ち上がった。


 アリスの次の相手は、シード選手だ。アリスにとってはここが第一関門のようなところがある。


 アリスはあがり症みたいだから本来の力を発揮できるか心配だけど、ぜひとも勝ってほしいところだ。


「アリス、がんばってね」

「はい!」

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