第43話 第二回戦
「緊張しました……」
その後、アリスは順当に勝利した。円形闘技場に歩いて出てきた時、手と足が一緒に出ていたから一瞬ダメかもと思ったが、戦闘開始したらやはり戦闘スイッチが入ったようで圧勝していた。
「アリス、おつかれさま。おめでとう」
「はい!」
これでオレとアリスは一回戦を突破した。次はシード選手だ。ある意味、ここからが本当の新人戦になるだろう。
「よう! 二人ともおつかれさん」
コレットがやってきた。コレットは実力か選択肢の力かはわからないが、順当に一回戦を突破していた。
「おめでとうコレット、お前も勝っていたな」
「おめでとうございます」
「まあな!」
オレとアリスは、コレットと急速に仲良くなっていた。というか、コレットの方から寄ってくることが多い。
貴族が多いこの学園では、貧民出身のコレットは異端だ。だから、みんながコレットと距離を置いている。中には露骨にコレットを嫌う奴もいるくらいだ。
ゲームでは、ジルベールがコレットを嫌う貴族の急先鋒だったな。
そんな状況でコレットは孤立していたのだが、やっぱり寂しかったのだろう。
口では強気なことを言っているが、コレットも普通の女の子なのだ。
コレットはアリスの隣に腰を下ろして口を開く。
「賭博もやってんだな。お貴族様の学校だからちょっと驚いたぜ」
「ああ。選手の実力を見抜く勘を養うとかそんな理由だな。次のオレの試合はオレに賭けるといいぞ」
「本当か? でも俺、あんま金持ってないぞ?」
「じゃあ貸してやるよ。オレが負けたら返さなくてもいいぞ」
「言質取ったからな?」
「ああ。アリスも賭けたらどうだ?」
「わたくしはあまり賭け事は……。ですが、わたくしもジル様が勝つと信じています」
「じゃあアリスも一緒に賭けようぜ? ジルが勝つって信じてるんだろ? じゃあ賭けなきゃ損だぜ?」
「そういうものでしょうか……?」
コレットがアリスを賭博に誘っているのを見ながら、オレは二人の関係が上手くいくように願っていた。
アリスも他の貴族からは距離を置かれているからな。二人がいいお友だちになってくれたら嬉しい。
ちなみに、オレもアリスにバレないようにひっそりと賭博に参加している。だって、オレはゲームの知識で誰が勝つのか知ってるんだ。賭けなきゃ損だろ?
◇
一回戦の試合がすべて終わり、二回戦が始まった。
「じゃあ、行ってくる」
「ジル様、ご武運を……!」
「絶対勝てよー!」
アリスとコレットから激励を受けて、オレは選手控室へと向かった。
選手控室に着くと、すぐに名前が呼ばれた。
一回戦を経て、参加者が半分近くになっているからな。順番が回ってくるのも早い。
円形闘技場に出ると、歓声が聞こえた。だが、オレの対戦相手が姿を現すと、歓声が一段と大きくなる。シード選手だからな。期待されているのだろう。賭博もあるからな。相手に賭けた人も多いのだろう。応援にも熱が入っているようだ。
円形闘技場の中央で対戦相手の少女と向かい合う。
この少女、なんだか見覚えがあるな? クラスメイトか?
「ジルベール・フォートレル男爵」
トーナメント表で見たのか、少女はオレの名前を知っていた。
なぜか少女はオレを睨んでいる。戦意とは少し違う気がした。
「なんだ?」
「姫様のお心を惑わす不忠者。わたくしが成敗してさしあげますわ。そして、あなたなんて大した存在じゃないと、大勢の前で証明してみせます」
姫様? 姫様ってエグランティーヌのことだよな?
こいつ、エグランティーヌの傍に控えていた生徒の一人か。どおりで見覚えあると思った。
「ここまで言われて、なにも言い返しませんの?」
「実力を口で語る趣味がないだけだ」
「ッ! 腐ってもムノー侯爵家の人間というわけですのね」
「オレはもうムノー侯爵家の人間ではない。今のオレはフォートレル男爵だ」
「舌戦はそこまでにしなさい。準備はいいですか?」
オレと少女は審判の言葉に頷く。
「では、始め!」
試合開始の合図と共に少女が仕掛けていた。小さな拳大の火の玉が連続してオレの足元を狙う。
ファイアブレットか。少女が杖を持っていたことからわかっていたが、彼女は魔法使いらしい。
ファイアブレットを避けるためにオレはサイドステップ、バックステップと少女から距離を取る。
これこそが少女の狙いなのだろう。魔法使いは接近戦を嫌がるからな。
魔法使い相手に距離が空いてしまった。この状況はよろしくない。
まぁ、指弾で攻撃するっていうのも手ではあるが、相手は格下だ。まだまだトーナメントが続く以上、あまり今は手の内を明かしたくはないな。
「ファイアボール!」
少女の決め球なのか、次は五十センチほどの火球が飛んできた。
たぶん、オレの肉体レベルならファイアボールくらい耐えられるだろうが、あまり痛い思いはしたくないな。オレは大丈夫でも服が吹き飛んだら恥ずかしいし。
オレは高速で飛んでくるファイアボールを避けようとして、ふと気が付いた。
これってもしかして、実験のチャンスなのでは?
せっかくだ。この試合、楽しませてもらおう。
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