第42話 新人戦
そんな学園の日々も過ぎ去り、ついに新人戦の開会式がやってきた。みんな面構えが違うな。隣にいるアリスも普段とは違って凛々しい面持ちだ。
「わたくしたちは、日ごろの鍛錬の成果を十分に発揮し――――」
選手宣誓を務めるのは、エグランティーヌだった。まぁ王族だし、妥当だろう。
エグランティーヌについて思うことがないわけではないが、この想いは振り切らないといけないものだ。
「選手代表、エグランティーヌ・パラディール」
エグランティーヌの選手宣誓が終わると、学園内にある円形闘技場に大きな拍手が巻き起こった。
観客は上級生の二年生、三年生と生徒の父兄のみなさんだ。
ちなみに、オレの父親であるフレデリクは来ていない。それどころか無様に負けろという手紙まで送ってくる始末だった。俄然やる気が出るね?
開会式も終わり、いよいよ新人戦が始まる。トーナメント表を見たら、オレもアリスもシード下だった。
トーナメントにはシード制が導入されている。シード選手とは、強いと予想されている優勝候補の選手のことだ。今回、シード選手は一回戦が免除されている。
優勝候補同士が一回戦で当たったりしたらかわいそうだろ? そんなことが起きないように、強い選手は予め序盤で当たらないように離れて配置されている。
そして、オレとアリスのシード下というのは、二回戦でシード選手と当たることになる位置のことだ。つまり、学園に弱いと判断されて、シード選手にぶつけられたのだ。
かわいそうなことするよな? 無論、相手がだが。
オレはもちろん、アリスだってダンジョンを二十階層まで攻略したんだぞ?
そんなのがまだ未成年でダンジョンに潜ることができない新入生の大会に出ていることがある意味チートだ。肉体レベルだって全然違うだろうしな。
だが、オレとは違ってアリスは接近戦の心得はない。相手に接近されたら敗北もありえるな。まぁ、対策が無いわけではないが……。あとはアリスの度胸次第か。
◇
「さて、そろそろオレの番だな」
「ジル様、応援しています!」
隣の席で試合を見ていたアリスが拳をギュッと握って応援してくれる。このアリスかわいいな。できればスクリーンショットしたいところだが、オレの目には残念ながらそんな機能はない。本当に残念で仕方ないよ……。
「軽く勝ってくるさ」
オレはアリスの髪を軽く撫でると、選手控室に向かうのだった。
◇
選手控室には三人ほどの生徒がいた。自信が顔に出ている者、溜息を吐いている者、さまざまだ。
「俺は絶対にベスト8に入るやるぜ!」
「はぁ、私は勝っても次シードなのよ……」
「…………」
まぁ、彼らオレと同じく一回戦の選手だからな。シード選手じゃない。あまり注目されていない選手だね。
「次、ジルベール・フォートレル男爵」
「ああ」
係りの人に呼ばれ、オレは円形闘技場へと出た。
人々の歓声がうるさいほど聞こえる。
まぁ、一種のお祭りだからね。みんな楽しんでいるのだろう。
「アリスはどこかな?」
アリスを見つけると、彼女は両手を組んで祈るようにオレを見ていた。
なんだかオレ以上に緊張しているみたいだ。
そんなところも愛おしい。
オレの相手は、槍を持ったおどおどとした少女のようだ。眉を八の字にして、見るからに自信がなさそうだ。
「よ、よろしくおねがいします!」
「ああ、よろしく」
たぶん戦闘系のギフトを持っていないのだろう。
「では、始め!」
「やああ!」
審判の戦闘開始の合図。それと同時に少女が槍を持って走ってくる。槍は正しく持てているけど、目を閉じちゃってた。
これじゃあダメだね。せめて目を開けないと。当たるものも当たらない。
オレは少女の槍を避けると、すれ違う瞬間に彼女の首に軽く手刀を落とした。
「あう……」
そのままあっさりと意識を失った少女を抱きとめた。
「勝者、ジルベール・フォートレル男爵!」
審判が勝者を叫ぶと、わああと歓声が起こった。勝者への祝福か、それとも敗者への慰めか。
オレは少女を駆けよってきた医療班に渡すと、円形闘技場を後にした。
◇
「ジル様、おつかれさまでした。おめでとうございます!」
「ああ。ありがとう、アリス」
自分の席に戻ると、アリスが満面の笑みでオレを出迎えてくれた。
かわいい。スクリーンショットしたい! なんでオレの目にはスクリーンショット機能が無いんだ!
せめてもとアリスの笑顔を記憶に焼き付け、オレは席に座った。
「次はアリスの番だね。自信はある?」
「ぜんぜんないです……。たぶん、あそこに立ったら緊張してしまいそうで……。ジル様は堂々としていましたね。なにかコツでもあるんですか?」
「コツか……。観客なんてかぼちゃだとでも思えばいいよ。大丈夫。アリスなら楽に勝てるさ。ダンジョンでの戦闘を思い出して」
「ダンジョンの……」
アリスもオレと一緒にダンジョンを二十階層まで攻略したんだ。たぶん、戦闘になればスイッチが入るだろう。だから、オレはあんまり心配していなかった。
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