第41話 お茶会の結果とコレット

「ジル様、わたくし、ダメかもしれません……」


 次の日。学園内のカフェテラスで、オレはさっそく貴族のお茶会に参加したアリスの元気付けるために彼女の話を聞いていた。


 アリスはうなだれて、今にもテーブルにつっぷしてしまいそうだ。


「なにか問題があったの?」

「わたくし、なにもできませんでした……」


 アリスの話では、お茶会に招待されたら、手土産にお菓子を持っていくのが常識らしい。


 だが、貴族女性としてあまり教育を受けていないアリスはそのことを知らなかったようだ。おかげでずいぶん恥ずかしい思いをしたらしい。


 失敗は他にもある。


 貴族の女の子が集まったお茶会では、王都の流行が話題になることが多いようだ。例えば王都のどこどこの香水がいいとか、王都のどこどこという店はドレスを作るセンスがいいとか。他にもお茶やスイーツ、観劇なども話題になったようだ。


 これまであまり女性らしい趣味をしてこなかったため、アリスは話題に入れないどころか、話題を振られても満足に答えることもできなかったらしい。


 これはオレにも責任があるな。オレはアリスのギフトに合わせて錬金術のアトリエを作ったり、アリスを強化するためにダンジョンに潜ったりしたが、アリスに対してあまり女性らしいプレゼントを贈ってこなかった。


 オレが贈ったものといえば、錬金術の素材ばかりで、香水一つも贈っていない。


 アリスはこれまでの実家での生活が影響しているのか、元々あまり物欲がないのか、自分から欲しいものをねだったりしない。


 そのことを知っていながら、アリスに貴族の女性らしいことをさせてこなかったオレの落ち度でもある。


 それに礼儀作法も問題になった。これまでお茶会に参加したことがないアリスは、どう振る舞えばいいのかわからなかったようだ。


 礼儀作法は、これから学園の授業で学んでもらうとして、アリスに貴族女性としての教養を身に着けさせるのは急務なような気がした。


 なんとなく勝手なイメージだが、貴族女性の社交の場はお茶会のような気がする。そのお茶会に参加する上で必要なのが、今の貴族女性の流行の知識。アリスが決定的にお茶会に対して苦手意識を持ってしまわないうちになんとかする必要がある。


 幸いにして、ここは王都だ。流行の最先端の街である。今の貴族女性の流行を勉強するにはもってこいの場所だ。


 まずは、実際に体験してみるのはどうだろう?


 ドレスのデザインの良し悪しについては難しいかもしれないが、香水やお茶、スイーツ、観劇なんかは実際に体験できるものだ。


 新人戦が終わったら、アリスをデートに誘って、それらを体験していくというのもいいかもしれないな。



 ◇



「おっす、ジル! アリス! 今日も頼むぜ」

「ああ」

「もう、コレット。言葉遣いを……」


 それから、オレとコレットの交流は始まった。


 主に放課後に必修科目の算数や国語の課題に追われるコレットに勉強を教える感じだ。今ではアリスも一緒になってコレットに勉強を教えている。


「なあ、ジルとアリスはどうして指も数えずにそんなに早く計算できるんだ?」

「これは慣れだな。コレットも慣れればできるようになる」

「そんなもんかねー……」


 コレットは見た目は主人公らしく美少女なのだが、言葉遣いが男っぽい。


「逆に質問なんだが、どうしてコレットはそんなに男っぽいしゃべり方なんだ?」

「こうしないとナメられるんだよ。貧民街はナメられたらおしまいなんだ」


 一応、オレはゲームを通して主人公の生い立ちを知っているけど、オレの想像以上に厳しい場所で育ったみたいだな。


「俺はまだ恵まれてる方だぜ? 珍しいギフトだからってこの学園に来られたからな。そうじゃなきゃ、今頃男の上で腰振ってただろうよ」

「腰を振る? マッサージとかでしょうか?」


 アリスがコテンと首をかしげてコレットを見ていた。どうやら本気でわからないらしい。


「カマトトぶってんじゃねえよ。ようは娼婦になってたって話だ。娼婦はわかるだろ?」

「ええ!? で、でもコレットはまだ十二歳ですよね!?」

「男の中には子どもを抱くのが好きな変態ペド野郎がいやがるからなぁ。俺も何度か襲われそうになったことがあるくらいだぜ? まぁ、なんとか逃げ出したけどよ」

「そうなんですか……」


 アリスは呆然とした様子で呟いていた。


 オレとしてもそんな殺伐としているとは思わなかったのでビックリだ。


「そんな心配そうな顔で見てんじゃねえよ。俺はまだ処女だぜ? 病気の心配はねえよ」

「そこを心配していたわけじゃないが……。まぁなんだ。たいへんだったんだな……」

「ええ。コレット、よく無事でしたね」

「まあな! それより、これ教えてくれよ。かけるって何だ? 意味がわからねえ」

「それには、まず九九を覚えないといけないな……」

「マジかよ……。めんどくせえな」


 そんなことを言っているが、コレットは地頭がいいのか九九を数日でマスターした。


 もしかしたら【勇者】のギフトは勉強面でも効果があるのかもしれないな。

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