第40話 主人公ちゃん
魔法学園の授業は、日本の大学のように選択科目制だった。自分で受けたい授業を選択する形だね。まぁ、中には必修の科目もあるけど、半分以上が選択科目だ。
しかも、必修の授業もテストで合格点を取ればスキップできる。
なんか、自分の得意なものをとことん磨けと暗に言われている気分だ。
まぁ、万能型より一点特化型の方が強いからな。たぶんその影響だろう。
オレは戦闘訓練と礼儀作法を中心に授業を構築したが、新入生の中にはすべての授業を希望した奴もいるらしい。やる気があって大変結構なのだが、それだとどれも中途半端になるよ?
まぁ、そいつがどうなろうと知ったことではないが。
そんな中、我らが主人公ちゃんは、片手剣をメインに学ぶつもりのようだ。まぁ、片手剣は攻守のバランスが取れたオーソドックスな戦闘スタイルだし、無難な選択だと思う。
【勇者】のギフトは、すべての技術習得にボーナスが付くギフトだ。だから『レジェンド・ヒーロー』のプレイヤーは、なんにでもなれた。
そして片手剣。当然だが、片手で持つ剣だ。そしてもう一つの手で、盾や他の武器を持てる。
普通は【剣術】や【盾術】なんかのギフトを持つ奴が選択する戦闘手段だが、主人公ちゃんの場合、【剣術】と【盾術】の両方のギフトを持っているようなものだ。成長スピードがまるで違ってくるのである。
そういう意味でも主人公ちゃんの持つ【勇者】のギフトを活かすなら、片手剣というのはベストだろう。
オレが主人公ちゃんなら、片手剣と盾、そして回復魔法あたりを覚えてタンクをやるか、片手剣と片手斧の二刀流にするかな。
さて、主人公ちゃんはどういう選択をするんだろう?
ただ、貧民出身の主人公ちゃんは、国語や算数などの必修科目をテストでスキップできないから、隙間時間で新人戦までにどれほど力を付けられるか……。未知数だな。
そういえば、主人公ちゃんの名前って何だろうね?
「ジル様……」
「ん?」
振り向けば、アリスが今にも死にそうなくらい顔を青ざめさせていた。
「そういえば、クラスの貴族女子会って今日だっけ?」
「はい……」
貴族女子会とはいうが、有力な平民の女子生徒も招待されているらしい。つまり、クラスの力を持つ女の子グループの集まりだ。でも、アリスも一応は貴族ということで招待されているらしい。アリスは断るなんてマネはできず、今日を迎えてしまったというわけだ。
「さすがにこればかりはオレが付いて行くわけにもいかないからなぁ……」
「ですよねー……」
「腹をくくって行ってこい。あとで話は聞いてやるから」
「絶対ですからね……」
そう言ってアリスはトボトボと哀愁を漂わせながら教室を出ていった。
「さて……」
どうしようかな?
もう新人戦まであまり日数が無いから、ダンジョンで経験値稼ぎでもするか?
そんなことを考えていると、教室に主人公ちゃんと二人っきりになっていることに気が付いた。
これって主人公ちゃんとお近づきになるチャンスなのでは?
主人公ちゃんは、ゲームでもさまざまなルートがあるからどんな将来になるかはわからないが、中には王妃になるルートもある。それ以外にも冒険者として成功したり、商人になって莫大な富を築いたり、いろいろな成り上がりルートがあるのだ。
今のうちに仲良くなっておいて損はないよな。
そんな打算的な感情で、オレは主人公ちゃんに近づいていていった。
どうやら主人公ちゃんは算数の問題を解いているようだ。必死に手の指を数えて計算している。
「こことここ、間違ってるぞ?」
「あん?」
答案の間違いを指摘したら、主人公ちゃんの緑の瞳がジロリと睨みつけてきた。
だが、その顔のかわいらしさからか、あまり怖くない。
「なんだよ、お前?」
「ジルベールだ。お前の名前は?」
「……コレット」
「コレット、こことここ、間違えてるぞ?」
「んだよ、うっせーなぁ」
そんな憎まれ口をたたきながら、コレットはオレの指摘した部分の答えを二重線で消した。計算し直すつもりらしい。意外と律儀なのか?
問題用紙を見ると、どうも答えが十を超える計算が苦手なようだ。
必死に手の指を折って数えているところから見て、十を超える計算ができないのだろう。
「十以上を数えられないのか……」
「手の指は十本しかないから当たり前だろ!」
なんとなく口に出した呟きに、コレットが噛み付いてくる。
「今までどうやって生活していたんだよ……?」
「十より多いのは、『いっぱい』で片付くんだよ!」
「なるほど……」
貧民の数に対する認識ってそんなものなんだなぁ。
「足の指を使って数えるのはできないのか? これなら二十まで数えられるぞ?」
「お前……天才かよ!」
そんなことも思いつかなかったのか……。この主人公ちゃん大丈夫かな?
「お前、名前なんだっけ?」
「……ジルベールだ。長いならジルって呼んでもいいぞ」
「おう! ありがとな、ジル!」
コレットのその笑顔は、まるで大輪の花が咲いたように美しかった。
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