第35話 二つ目の試練

 アリスとひとしきり励まし合った後、オレは男子寮に戻ってきた。オレは男爵家の人間なので、一階の部屋が与えられた。どうやら親の爵位が上がると、上層の階のいい部屋になれるらしい。まぁ、どうでもいいね。


 一階の下級貴族用の部屋だが、それでも広い。なんと三部屋もあるんだ。リビングと寝室。そして従者用の部屋だ。オレは従者を連れてきてないから最後の部屋は意味ないね。


 とはいえ、下級貴族の中には従者の用意ができない家も珍しいがありえないわけではないらしい。従者が必要な授業では、学園側が従者を貸してくれるみたいだし、まぁ、問題ないだろう。


 それにしても、問題は学園生活をどう過ごすかだな。


 オレがムノー侯爵から嫌われているのは周知の事実だ。


 これ自体はいいことなんだが、このままではみんながムノー侯爵の怒りを恐れてオレに近づいてきてくれない。


 やはり、ムノー侯爵の怒り勘案してもオレに近づくメリットをこちらから提示するべきだろう。


「やはり強さか……?」


 今、オレに提示できるものは自身の強さくらいしかない。


「たしか、新人戦があったよな? そこでいい成績を、いや、一番になれば……!」


 新人戦というのは、新入生同士でおこなうなんでもありのトーナメント戦だ。個人の強さを貴ぶこの世界らしいイベントだね。


 主人公は、選択肢によって戦闘の結果が変わってくる。この国の王女であるエグランティーヌをはじめ、主要キャラクターの紹介イベントだ。


 ここで優勝すれば、みんなのオレを見る目も変わるんじゃないか?


 もしかしたら、オレの話を聞いてくれる奴も現れるかもしれない。


「やってやるか!」


 元々、学園でいい成績を取って連座で殺すのは惜しいと思わせる作戦だったのだ。やるしかない!


「となると、問題は主人公か……」


 主人公は、最善の選択肢を選べば、無条件で新人戦で優勝することになる。こいつは注意が必要だ。


 オレは主人公に勝てるだろうか?


 そして……。


「そういや、主人公って男と女、どっちだろうな?」



 ◇



 みんながよそよそしい男子寮での生活も一夜明け、オレは学園を出て王都へと繰り出していた。


 目的はダンジョンだ。


 この王都にも、ダンジョンが存在する。


 人に道を訊くこと数度、オレはようやくダンジョンにたどり着いた。


 まるでコロッセオのように丸く城壁が築かれたその内部にダンジョンへの入り口があるという。


 オレはいつもの白い冒険者の装束に身を包むと、仮面も着けてダンジョンの入口へと並んでいる冒険者の列へと紛れ込んだ。


「さあさ冒険者のみなさん、朝食は取られましたか? うちのホットドッグはどうだい? 旦那方のイチモツにも負けないぶっといウインナーが自慢だよ!」

「男は肉だ! 串焼きを食ってけ!」

「そこのお姉さん、果物はいかが? もぎたて新鮮だよ」


 道端では冒険者相手に朝食を売る屋台もあり、客引きでやかましい。


 どんどんと冒険者がダンジョンの中に飲み込まれていき、ついにオレの番になった。


「冒険者証を見せろ。ペーパー級か。仲間は? お前一人なのか? 死ぬなよ」


 意外にも優しい衛兵に肩を叩かれて、オレはダンジョンへと潜る。


 ダンジョンの外観は、オレールの街にあったダンジョンと同じだ。継ぎ目の無い白いピラミッド。ゲームの通りだな。


 ダンジョンの中もオレールの街のダンジョンと同じ造りだ。部屋の真ん中によくわからないモニュメントがあり、部屋の奥には第一階層に続く階段が見える。


 オレは期待を込めてモニュメントに手をかざすと――――。


 101。


 期待通りの数字が目の前に現れた。


 やはり、ダンジョンの到達記録は、オレの前世の記録になっている!


 さっそく101を押すと、目の前の空間が歪み、眩暈のようなものを覚えた。


 そして、目を開けると――――ッ!


「おお! クリア部屋だ!」


 そこには黄金に輝く神殿があった。ダンジョンを踏破した者のみが見ることができるすべてが黄金の空間。あまりにも眩しくて目がチカチカする。


 オレはもう手慣れたものとして黄金神殿の階段を上っていく。


 現れたのは、既に開いている両開きの扉と、まるで闘技場のようにも見える円形のなにもない空間だ。


 だが、オレはもう知っている。ここが最後の戦場であると。


「よし、いくか……」


 覚悟を決めて黄金神殿の中に入ると、円形の空間の中央からまるで湧き水のように漆黒の粘液が現れる。


 これが、ダンジョンの最後の守り手にして、秘宝の番人。影だ。


 影はぬぷぬぷと盛り上がると、オレと寸分変わらぬ姿を取った。


 ステータスもスキルもなにもかもが一緒のもう一人の自分。それが影だ。


 ご丁寧に黒いタスラムまで持ってやがる。厄介なことこの上ないね。


 オレがファイティングポーズを取ると、まるで鏡写しのように影もファイティングポーズを取った。


 こいつを倒さないと、ダンジョンのクリアご褒美が貰えない。


 是が非でも倒さないとな。

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